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量産されるブラブラ散歩番組を支える「素人力」

テレビコラムニスト 桧山珠美

「早い」…手間がかからない

  • 海外のまちも訪ねることも。「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK提供)
    海外のまちも訪ねることも。「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK提供)

 ドラマを1本撮ろうとしたら、タレントとの出演交渉から始まり、脚本の読み合わせ、カメラリハーサル、衣装合わせなど、とにかく時間がかかる。ロケともなれば、エキストラや天候など不確定要素も加わり、余裕を持ったスケジュールが必要となる。

 たとえば、今年4月に始まった朝の連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK)のクランクインは5か月前の昨年11月だった。民放でも、2、3か月前から撮影を始めるのが普通だ。

 スタジオで収録されるバラエティー番組でも、キャスティングやセットに時間を要する。打ち合わせや台本の確認など、テレビで見ている部分の何倍もの時間がかかっている。

 これが「ぶら散」となると、出演者はせいぜい1人か2人。ゲストが加わるパターンでも、多くても計4、5人だ。ロケの日程は原則変更なしで、雨天決行も当たり前。こうなると、話が早い。準備にかかる手間が圧倒的に少なく、万が一、ゲストの変更などの“緊急事態”にも迅速に対応できる。

「安い」…お手軽に作れる

 出演者が少なければ、それだけ、出演者に支払う経費を抑えられる。

 中には、カメラ1台で撮影するという番組もあるし、衣装、メーク、運転手など裏方のスタッフにかかる人件費も削減もできる。

 「最初から制作費はわずか数百万円。その中で、新しい番組の企画を出せと言われて、苦し紛れに考えたのが散歩だった」(番組制作会社)

 人気のバラエティー番組なら、数千万円とも言われる制作費と比べれば、「ぶら散」番組の予算は5分の1~10分の1程度で済むというから、お手軽だ。地上波よりも低予算で作らざるを得ないであろうBSで、「ぶら散」番組がもてはやされるのもうなずける。

 

「おいしい」…光る素人力

 テレビ局にとって「おいしい」というのは、「()(だか)がいい」とも言う。つまり、思っていたよりもいい映像が撮れるということだ。

 「ぶら散」の人気を支えているのは、ひとえに「素人力」にほかならない。

 かつてなら、タレントに声をかけられ、テレビカメラを向けられた一般人はドギマギして何をしゃべっていいか分からないのが普通だっただろう。

 ところが、最近テレビを見ていると、つくづく個性豊かな素人が画面に登場するようになったと思う。商店街で買い物をしていた普通のおばちゃんが、マイクを向けられると、ビックリするようなボケをしたり、気の利いた突っ込みを入れたりする。

 先日も「鶴瓶の家族に乾杯」を見ていたら、寿司店の大将が得意げに、壁のメニューを紹介していた。「ロシア民謡握り」(トロ・イカ)、「オリンピック古橋さんの握り(トビウオ)」、「都はるみさん握り(アンコウ)」……、冗談みたいなメニューがずらり。さすがに、これはテレビ局側の仕込みかと疑ったほどだ。

 「路線バスで寄り道の旅」では、バスに乗り合わせたカップルに、徳光さんが「いつから、つきあってるの?」と聞いてしまうシーンがあった。男性が「まだ、なんです。実は、これから……」って。見ているこっちが「テレビでそんなこと打ち明けちゃう?」とドキドキすることも。

 こんな素人をつかまえたら、制作スタッフは「おいしい」とにんまりしているだろうと想像してしまう。それほど、“素人力”の伸びしろは大きい。何が飛び出すか分からない。そして、それが「ぶら散」番組の魅力として光っている。

 しかし、裏を返せば、それだけ芸能界の“玄人力”は沈下しているのかもしれない。用意されたひな壇で声を張り上げて、同じネタばかり繰り返すお笑い芸人よりも、まちなかを歩いたほうがユニークな人に出会えそうなのは確かだ。

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プロフィル
桧山 珠美( ひやま・たまみ
 フリーライター、テレビコラムニスト。大阪生まれ。編集プロダクション、出版社勤務を経てフリーに。現在、「読売新聞・アンテナ」「日刊ゲンダイ」「GALAC」などでテレビ・ラジオ・放送メディアに関するコラムを連載。ギャラクシー賞CM部門選奨委員。