経済

エンの下の力持ち 1円玉が消える?

一橋大学経済研究所長 北村行伸 
 造幣局は今年度、1円玉を作らないことを決定した。2014年に消費税が8%に引き上げられてから、小銭の需要増を見込んで増産したが、思ったほど需要が伸びなかったためだ。電子マネーや原料のアルミニウムの価格高騰、この先の10%への消費増税など、1円玉離れを加速させる要因は多々ある。日本から1円玉が消える日が来るのだろうか。一橋大学経済研究所の北村行伸所長が分析する。

6年間で19億枚減少

  • 1円玉の若木は「のびゆく日本」を象徴する(写真はイメージです)
    1円玉の若木は「のびゆく日本」を象徴する(写真はイメージです)

 政府は2017年4月に予定されていた消費税10%への引き上げを、19年10月まで延期することに決めた。消費税率が10%という切りのよい数字になると、価格が10円あるいはそれ以下の単位で設定されている商品の支払いを除けば、1円玉を使う機会が減るだろう。消費税率と1円玉や5円玉などの小銭の需要は密接に関係していると考えられてきた。

 実際には、消費税が5%から8%に引き上げられた14年4月以後、財務省は1円玉、5円玉、50円玉の需要が増えるだろうと予想して、14~15年には発行量を増やした。しかし、思ったほどには需要は増えず、1円玉の16年の発行は見送られた。ちなみに、1円玉の流通量は10年から16年までで400億枚から381億枚まで減少しているが、日常の決済には十分な量が流通している。

 この「1円玉」という、日本の通貨の基準単位でありながら、何ともかわいらしい、そして、いろいろな意味で軽く扱われている貨幣の未来に、何が待ち受けているのだろうか。

1円玉が市場を元気に

 実は1円玉は、市場での価格競争を活発にするという役割を持っている。

 例えばスーパーマーケットの特売品で、普段120円の商品を値引きして、98円で売るということがよくある。切りよく20円引きして100円で売ることも可能だが、心理的に100円を切る価格設定が特売感を出すために必要なのだと考えられる。「この店はあの店より2円安いから買いたい」と消費者に思わせるわけだ。この1、2円の微妙な差が売上高を大きく左右する。

 1円単位での価格設定がなされるとすれば、企業や消費者にとって1円の差は確実に認識されているということだ。つまり、市場競争が十分に行われており、その結果として、価格が費用に見合った形で設定されていることを意味する。

 モノの値段がかなり大雑把に設定されている発展途上国の土産物店などでは、小銭があまり使われず、場当たり的に切りのよい価格で取引が行われている。これでは「他店より1円でも安く」という心理が働かず、価格競争が機能しない。さらに小銭の流通量が少なくなり、価格設定がより大雑把なものになるという悪循環に陥っている。

 安倍政権では、「デフレからの脱却」をスローガンに各種の経済政策を打ち出しているが、民間企業が費用削減努力を通して、価格引き下げ競争をしているのは企業努力として評価されるべきことであり、なんら批判されるべき行動ではない。むしろ、このような費用削減努力が日本企業の技術力や対応力を高めてきたとも言えるだろう。

 

 

2016年6月23日05:20 Copyright © The Yomiuri Shimbun