文化

誤解だらけのアドラー心理学

哲学者・日本アドラー心理学会顧問 岸見一郎
 最近、書店に入ると、心理学の本が平積みされているコーナーが目立つ。中でも、数多くの類書が出ているのが、「アドラー心理学」だ。ところが、「これらの中にはアドラーの本当の教えを誤解しているものが少なくない」と、哲学者の岸見一郎氏が警鐘を鳴らしている。岸見氏はアドラー心理学ブームを作った『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の共著者。では、アドラーが本当に伝えたかったのは何なのか。岸見氏が世に広がる誤解を解きほぐす。

言葉は真理を伝えられるのか

  • 岸見一郎氏
    岸見一郎氏
  • 売れ筋本が並ぶ八重洲ブックセンター 本店1階店頭にも、アドラー本がずらり
    売れ筋本が並ぶ八重洲ブックセンター 本店1階店頭にも、アドラー本がずらり

 仏陀は菩提(ぼだい)樹の下に座して悟りを開いた後、自分が悟ったことはあまりに深く微妙なので、それを説いたところで理解されず、誤用する人も現れるだろう、それなら、このまま沈黙を守り、直ちに涅槃(ねはん)に入るに()くはない、と考えたのです。

 しかし、ためらう仏陀が、再三再四説得されて説法をしたからこそ、仏陀の教えは誤解されもしましたが、今日まで伝えられることになったのです。

 アドラーは「われわれの科学でさえ絶対的真理に恵まれていない」といっています(『個人心理学講義』)。誰もが誤る可能性があります。それにもかかわらず、少しでも真理に近づく努力は必要だと思います。

 2013年に『嫌われる勇気』が刊行されて以来、アドラーの思想がよく知られるようになりました。

 他方、ブーム後に矢継ぎ早に刊行された類似書籍や、私の本の読者の反応を見ると、誤解されている面も多々あります。以下、誤解されていると思われるいくつかの点について考えてみます。