生活

台風激減 嵐の前の静けさなのか?

日本気象協会予報サービス課 吉田 直人 気象予報士

この先の台風の見通しは?

 ではこの先、台風の傾向はどうなるのでしょうか?

 実は、今年のようにエルニーニョ現象の影響で6~7月頃まで台風の発生が少なかった年は、それ以降の台風の発生も少ない傾向があります。

 例えば、1997年に20世紀最大規模とも言われているエルニーニョ現象が発生した時は、翌年の98年の台風1号の発生が7月9日と今年同様に遅く、年間の発生数も16個と、平年(25.6個)に比べかなり少なくなりました。台風の年間発生数が観測史上最も少ない14個だった2010年も、前年の09年にエルニーニョ現象が発生しています。

 それでも安心してはいけません。発生数が少なかった1998年は台風が4個も日本に上陸しており、いずれも大きな被害をもたらしたからです。特に、9月21日に台風8号が、22日に台風7号が2日続けて和歌山県に上陸し、東海、近畿、北陸の広い範囲で死者・行方不明者19人を出す災害となりました。

 同じ年に発生した台風4号は、上陸こそしなかったものの、本州付近に停滞していた前線の活動を活発にしたことで、栃木県では総雨量1,000ミリを超える記録的大雨となり、土砂災害や浸水などで多くの被害が発生しました。「台風の発生が少ない=日本への影響も少ない」ではないということが分かります。

 台湾を直撃した今年の台風1号も、一時中心気圧が900ヘクトパスカルの「猛烈な」勢力にまで発達し、台湾メディアが「2013年にフィリピンに甚大な被害をもたらした台風30号と同規模」と警鐘を鳴らすほどでした。「台風の発生が少ない=強い台風が来ない」ではないということも分かります。

 一方で、過去にはエルニーニョ現象の影響を受けながら、台風が平年並みに発生した年もありました。天気の長期予報が難しいと言われる所以(ゆえん)です。

 例えば、エルニーニョ現象が発生した1972年の場合、翌年の73年は台風1号の発生が7月1日と遅かったものの、7月中に一気に7個も台風が発生し、年間の発生数は平年に近い21個となりました。エルニーニョ現象の影響はあったとしても、台風の発生は他の要因も多く絡んでくるため、発生数が必ずしも少なくなるということはありません。台風シーズンに入るこれから、やはり例年通りの注意は必要なのです。

強い台風が上陸?

  • 強い台風が上陸するかもしれない(写真はイメージです)
    強い台風が上陸するかもしれない(写真はイメージです)

 近年、地球温暖化の影響が懸念されています。台風との関係性はまだ分かっていませんが、地球全体で海面水温が上昇傾向にあるのは事実です。

 台風が発達するためには、海面水温が高いことが条件の一つになります。従来、日本近海は台風が発達できるほど海面水温が高くないため、接近に従い台風は勢力を弱めることが多かったのですが、日本近海で海面水温が今後高くなってくると、台風の勢力が衰えないまま接近・上陸しやすくなることが考えられます。

 もう一つ注目してほしいのが、台風による犠牲者は近年減っているのに、被害額は増大していることです。東海地方に甚大な被害をもたらした59年の伊勢湾台風では、国内の台風史上最悪の5098人の死者・行方不明者を出しました。

 対照的に、近年の台風では、数百人、数千人の死者・行方不明者が出ることはごくまれになっています。その理由としては、住宅やビルの建築技術が高くなり、暴風雨で倒壊することが減ったことや、河川でも堤防の整備などが進み、簡単には洪水が起きなくなったことなどが考えられます。

 一方で、資産価値が集積している都市部では、都市化に伴い洪水や浸水の被害が拡大しやすくなったことで、台風による被害額は増大する傾向があります。都市部はコンクリートやアスファルトの地面が多いため、降った雨がほとんど地面に染み込まず、道路や住宅街などにあふれやすくなっています。公共交通機関の遅れや運休による混乱も、都市に特徴的な被害です。

2016年8月11日05:20 Copyright © The Yomiuri Shimbun