経済

「巨大カジノ」で日本経済は本当に良くなるのか?

静岡大学人文社会科学部教授 鳥畑与一

夢破れた米国のカジノ街

 たしかに、シンガポールでは観光客が増加し、観光収入が増大した。税収や雇用も増大し、シンガポール経済に大きく貢献したように見える。新しく創設されたカジノ規制庁(CRA)や国家問題ギャンブリング評議会(NCPG)などのギャンブル依存症対策は有効に機能し、ギャンブル依存症率は大きく減少しているように見える。

 しかし、カジノ大国の米国では事情が異なる。カジノによる繁栄の象徴であったアトランティックシティ(ニュージャージー州)が、カジノ収益の半減により、12あったカジノのうち、5つが閉鎖し、市経済が破綻に瀕している。ミシシッピ州の貧しい街がカジノで再生し、「チュニカの奇跡」と称賛されたカジノ街・チュニカも同様である。

 米国では「地域経済を衰退させる良い方法? それはカジノを建設することさ」(アトランティック誌、2014年8月7日)と言われるほどである。カジノを合法化している英国でも、IR型カジノの建設は地域経済へのプラスの貢献が不透明という理由から認めていない。この落差は、なぜ生まれるのだろうか?

 秘密は、カジノのビジネス・モデルそのものにある。そもそも、巨大なIRを動かす「収益エンジン」の燃料=カネはどこからくるのか? カジノ合法化で毎年400億ドルの収益が生まれているという香港投資銀行リポートのイラストのように「天からカネが降ってくる」のだろうか?

  • 香港投資銀行リポートのイラスト
    香港投資銀行リポートのイラスト

 この点について、ノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンは『経済学』で、「新たな価値を産み出さない無益な貨幣の移転」でしかないと書いている。偶然性に賭けて掛け金を取り合うギャンブル(賭博)は、ポケットからポケットへのマネーの移転というゼロサム行為である。掛け金を得た側の懐は豊かになるが、その代償として負けた側の懐は貧しくなる。

 サミュエルソンは、ビジネスとして行われるギャンブルは企業側が必ず勝つ仕組みであることから、所得の不平等を拡大していくこともギャンブルの本質であるとも指摘する。カジノの収益は、消費行為における所得(購買力)の移転でしかなく、カジノ収益の増大は、顧客の他の消費支出減少というカニバリゼーション(共食い)をもたらすのである。


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