経済

「巨大カジノ」で日本経済は本当に良くなるのか?

静岡大学人文社会科学部教授 鳥畑与一

国内客を規制したシンガポール

 ところで、このようなギャンブル依存症の負の効果=社会的コストは、「責任あるギャンブル」といった対策で最小化できるのだろうか? 成功例としては、依存症率を減少させたシンガポールの事例がしばしば引き合いに出される。

 シンガポール政府によるカジノ・ギャンブル対策の特徴は、カジノでのギャンブルの自由を認めながらも、自国民をカジノに行くことを徹底的に規制する点である。国内でのカジノ宣伝の禁止、送迎サービスの禁止、入場料の徴収に始まって、生活援助などを受けている低所得者層の入場禁止措置などである。

 その結果、今年9月時点で外国人労働者約25万人を含む約32万人が、カジノへの入場禁止対象となっている。シンガポールの人口が554万人(2015年6月)であることを考えると、いかに強い規制であるかが分かるだろう。

 その結果、カジノ入場料徴収額は導入当時の2.2億ドルから2016年には1.5億ドルへ大きく減少している。国家問題ギャンブリング評議会の調査でも、サンプル調査回答者におけるカジノ参加率は激減している。

 一方、韓国では、カジノによるギャンブル依存症が社会問題になっている。唯一、自国民が利用できるのが、炭鉱廃坑後の地域振興策として建設された江原道のカジノだ。カジノ収益でスキー場などのリゾート施設を建設し、地域振興を図ろうとしたが、十分な成果は上がっていない。

 地域の風紀は乱れ、破産して自殺に追い込まれる人が相次いだため、当局は依存症対策として入場時間や入場回数を制限するなどの規制強化に乗り出したものの、深刻な人口流出が続く。今では推進派も「失敗事例」と認めざるを得ない状況である。

 シンガポールの依存症対策の効果の最大要因は、カジノに行かせない規制の成功であると言えるが、問題はこのような規制が日本で可能かという話である。

 今年、訪日外国人旅行者が、当初の2020年の目標値であった2000万人を超え、観光消費額も4兆円に迫っている。地道な日本文化の観光資源化が花開いている今、なぜ危険性の高いカジノ依存の観光産業が必要なのだろうか。ギャンブル大国化の弊害を検証することが、まずは政治の責任と考える。


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プロフィル
鳥畑与一( とりはた・よいち
 1958年、石川県七尾市生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科修了。「略奪的金融の暴走」(学習の友社、2009年)、「カジノ幻想」(ベスト新書、2015年)のほか、共著、論文多数。趣味は温泉巡り。

  • 『略奪的金融の暴走』(学習の友社)
    『略奪的金融の暴走』(学習の友社)


  • 『カジノ幻想』(ベスト新書)
    『カジノ幻想』(ベスト新書)


2016年11月7日11:43 Copyright © The Yomiuri Shimbun