経済

石巻の缶詰会社が震災前より業績アップした理由

経済ジャーナリスト 高井尚之
 東日本大震災から6年。被災地では、地域経済を支える中小企業の多くが、今も復興の道半ばにある。被災地はもともと水産加工業が盛んな地域だが、水産庁が被災5県(青森、岩手、宮城、福島、茨城)の水産加工業者を対象に実施した調査によると、震災前と比べて売り上げが8割以上にまで回復した企業は47%にとどまる。そんな中、2期連続で震災前を超える売上高を記録した缶詰メーカーがある。宮城県石巻市の「木の屋石巻水産」だ。津波で工場が壊滅し、操業停止に追い込まれながら、同社はなぜ、短期間でV字回復をなし得たのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏がリポートする。

篠原ともえさんデザイン「カワイイ缶詰」発売

 今から1年ほど前、ある小さな缶詰商品が話題を呼んだ。木の屋石巻水産が発売した「カレイのえんがわ」だ。白とピンクを基調としたポップでキュートなパッケージデザインは、およそ「魚の缶詰」らしくない。

  • 篠原ともえさんがパッケージをデザインした「カレイのえんがわ」(上)と従来の「カレイの縁側・醤油煮込み」
    篠原ともえさんがパッケージをデザインした「カレイのえんがわ」(上)と従来の「カレイの縁側・醤油煮込み」

 デザインを担当したのは、タレントの篠原ともえさん。1990年代後半に個性的なファッションと独特の話し方で「シノラー」ブームを巻き起こし、現在もテレビなどで活躍する篠原さんは、服飾の学校で学んだデザイナーの顔を併せ持っている。

 きっかけは、篠原さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組に、同社の商品開発担当者がゲスト出演したことだった。「カワイイ」をキーワードに、全国各地の名産やイベントの情報などを紹介する番組で、木の屋の「カレイの縁側・醤油煮込み」の缶詰が取り上げられた。

 そこで担当者が、篠原さんに「商品のパッケージが地味なので何とかしたい」と相談したのだった。この商品は、缶詰の材料としては非常に珍しいカラスカレイのヒレなどの部位を醤油(しょうゆ)で味付けたもの。血液をサラサラにする効果があるとされるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富で、97年の農林水産祭で内閣総理大臣賞を受賞した同社が誇る商品の一つだ。しかし、近年は売り上げが伸び悩んでいた。

 相談を受けた篠原さんは、女性消費者にアピールしようと、「カワイイ」パッケージデザインを考案。パッケージだけでなく、「カレイの縁側・醤油煮込み」という商品名も地味だったため、シンプルで覚えやすく、字体もやさしい「カレイのえんがわ」に変更した。

 「おかげさまでこの商品は一時、品切れとなるほどの人気を呼びました」。こう振り返るのは、木の屋石巻水産の親会社「木の屋ホールディングス(HD)」社長の木村長努(ながと)氏だ。篠原さんのアイデアで生まれ変わった缶詰商品は、全国FM放送協議会などが主催する昨年の「日本カワイイ大賞」の「カワイイ食と農部門」大賞を受賞した。

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