政治

豊洲移転問題、石原元都知事喚問を前に考えること

明大教授・元都副知事 青山 佾

そもそも「ターゲット」は?

 気になるのは、もともと、何をターゲットにするかが必ずしも明確でない百条委員会だということである。

 今回の百条委員会の成果が、(1)様々な疑問が提起されていた交渉過程などの細部について確認できた(2)誰かが良からぬことをしていて、それが明らかになった(3)虚偽の説明が明らかになった――の3点のうち、(1)だけに終わるとしたら、なんのための議会調査権発動だったのか、ということになるだろう。

住民投票はありうるか

 手詰まりの状況の中で、豊洲市場移転をめぐって「住民投票を実施したらどうか」という論があると聞く。

 ひとくちに住民投票というが、表に示したように、いろいろな住民投票がある。わが国で一般に住民投票と呼ぶのは、イニシアチブ(直接立法)ではなくレファレンダムだ。自治体行政の場面では主に「諮問的レファレンダム」、たとえば道路建設の計画に対する賛否投票のように、投票結果が必ずしも議会を拘束しないもののことをいう。

 レファレンダムにはほかに、憲法改正時の国民投票のように住民の意思を問うことが義務付けられている「義務的レファンダム」、議会が成立させた法案の発効を住民が阻止しようとする際などに行なわれる「請願的レファンダム」などがある。

【表2=住民投票の種類】

大分類 内容




イニシアチブ(直接立法) 議会でなく住民投票で条例等を制定する
義務的レファレンダム(例:憲法改正の国民投票)
レファレンダム(いわゆる住民投票) 諮問的レファレンダム(例:道路建設賛否投票)
請願的レファレンダム(例:条例に対する拒否権)

 本来なら議会が存在しているのだから、そこで政策決定がなされるべきだし、そもそも首長や議員の選挙があり、候補者が政策を掲げて戦うので、自治体で住民投票が一般的に行われる必要はない。

 むろん、ごく小さな自治体だったら、全員集会でものごとを決めてもいいはずだ。しかし、議会制民主主義を特に尊重するイギリスでは、たとえ住民が数十人の自治体であっても、議会を設置しないと財政権を認めない。

 なぜか。全員投票だと、個人の感情によって賛否が決まる恐れがある。だが、代議制度なら、議員が責任をもって市民全体の利益、地域全体の将来を討論して冷静に判断することを求められる。だから議会は必置なのだ。

 世界史において、議会制民主主義が確立してきた過程を考えてもいい。住民投票による政策決定は感情的に流れやすく、苦渋の決定のようなことは議会で専門的かつ濃密に議論しないと、正しい決定は期待しにくい。

 近年でも、本来なら議会制民主主義の祖国ともいうべきイギリスで、EU離脱の是非を問う国民投票において大方の予想に反して離脱が可決され、その後、離脱に投票した国民からも再投票を望む声が上がる事態となった。住民投票にはそういうリスクが伴うことを知っておく必要がある。

 豊洲市場移転については長く複雑な経緯があり、知事も議会も存分に調べてきたはずである。いまさら自分たちで決めることができず、住民投票に決定を委ねるのは責任放棄のそしりを免れまい。

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2017年03月17日 17時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun