国際

思わぬ副作用が生じる可能性も…米シリア攻撃

中東調査会上席研究員・高岡豊
 アメリカのシリア攻撃は、中東の周辺国のほか、関係する欧州やロシアなどにも少なからぬ影響をもたらしそうだ。現地の動向に詳しい中東調査会の高岡豊氏に解説してもらった。

  • シリアに向けミサイルを発射した米海軍の駆逐艦(AP)
    シリアに向けミサイルを発射した米海軍の駆逐艦(AP)

 今回の米軍によるシリア攻撃は、全く予想していなかったわけではないが意外だった。シリア側から見ると、オバマ前政権もトランプ政権も対シリア政策は変わらない。シリアを抜本的に変えるには不十分な戦力で介入しているからだ。すでに報道されているが、米国はロシアに攻撃を事前に通告しており、今回の攻撃は象徴的な意味でしかない。米国が内戦の基調を変えるほどの戦力を投入するのか、注目すべきは今後の動きだ。

 今回のシリアに対する攻撃は、反体制派の支配地域で化学兵器が使われたことに対抗するものだが、仮にアサド政権の仕業であったとして、合理的な理由はまったくわからない。そもそも政府軍、反体制派、「イスラム国」という三つの勢力の間の内戦で、政府軍は有利な情勢だった。

  • シリア北西部ハンシャイフン市で、化学兵器によるとみられる被害を受け、酸素マスクで処置を受ける男性(ロイター)
    シリア北西部ハンシャイフン市で、化学兵器によるとみられる被害を受け、酸素マスクで処置を受ける男性(ロイター)

 その理由は、内戦の当事者の一つであるイスラム過激派組織「イスラム国」への対策が本腰を入れてとられるようになったからだ。2011年から15年ぐらいまで、欧米はアサド政権を攻撃するだけで、「イスラム国」は放任状態だった。

 しかし、欧州その他の場所で「イスラム国」が関わったとされる事件が起きるようになり、放置してはいけないという態度に変わったことで、「イスラム国」は明らかな衰退傾向にある。一見、反体制派となっている武装勢力も、実は主力はアル・カーイダ系だったなどというからくりもある。世界がイスラム過激派は害悪だと認識して対策をとるようになり、反体制派の武装勢力も衰退した。政治組織も含めてシリアの反体制派はここ数年、各国の手厚い支援を受け続けたにもかかわらず、まったく実績を上げていない。アサド政権の地盤が案外強かったということだ。

  • シリアのアサド大統領(ロイター)
    シリアのアサド大統領(ロイター)

 一方、ロシアはシリア軍の作戦を支援する形で直接介入している。空軍基地などを整備して足場を作り、顧問団や特殊部隊を派遣して実際の戦闘にも加わっている。中東・アフリカで起きた民主化運動『アラブの春』におけるリビアの政権崩壊の過程で、ロシアは、欧米諸国が特定の政権に対して合格なり失格なりの判定をして自由に放逐していいというルールができるのを断固阻止したかった。その決戦の場がシリアだ。この場面でロシアが譲歩するのは難しい。

 今回の米国のシリア攻撃がもうひとつの内戦当事者である「イスラム国」に与える影響は、米軍による攻撃の量と質によって変わってくる。シリア空軍を壊滅させるなど、シリア軍に深刻な打撃を与えれば、イスラム国にとっては絶好の“援助”となる。シリアでは米国の介入の規模にかかわらず、思わぬ副作用が生じうる。正解のない選択肢しか並んでいない状態だといえる。(談)

プロフィル
高岡 豊( たかおか・ゆたか
 公益財団法人中東調査会上席研究員。1998年、早稲田大学教育学部卒業。2000年、上智大学大学院外国語研究科博士課程前期修了(修士)。同年から3年間、在シリア日本国大使館に専門調査員として勤務し、シリア内政やパレスチナの過激派諸派について調査。03年から中東調査会で非常勤研究員として勤務、11年、上智大学で博士号(地域研究)を取得。14年から現職。

2017年4月7日18:11 Copyright © The Yomiuri Shimbun