国際

シリア内戦、もう一つの危機

ユニセフ・アジア親善大使 アグネス・チャン

一番辛いのは「尊厳」がないこと

  • レバノン・ベカーのデルハミエ非公式集落を訪れたアグネス・チャン氏(c)日本ユニセフ協会/2017/S.taura
    レバノン・ベカーのデルハミエ非公式集落を訪れたアグネス・チャン氏(c)日本ユニセフ協会/2017/S.taura

 ヨルダンからレバノンに移動中だったと思いますが、シリアで化学兵器が使われたというニュースが流れました。周囲で多かった反応は「またか」というものでした。シリアでは2013年にも化学兵器が使われたことがあったので、初めてではないという認識がみんなにあるのです。残った家族や親戚、友達がいるので、大丈夫か心配していました。

 レバノンは人口が580万人で、難民が150万人と推定されています。2015年に国境を閉め、難民を受け入れていません。だから、国連も難民キャンプを作ることはできないのです。

 政府は彼らを「故郷を追われた人々」(displaced people)と呼んでいます。ヨルダン国内の難民が生活しているのは「非公式集落」(informal settlement)。自分たちで家を建て、地代を払って住んでいます。支援をするには非公式集落に入っていかなければなりません。

 非公式集落で家族の話を聞くことができました。紹介してくれたのはLOSTという民間活動団体で、14歳から25歳までの少年たちを援助しています。レバノンでは、イスラム過激派が非公式集落に出入りして子供をリクルートしようと狙っており、それとの競争です。子供を学校に行かせ、自分の将来を考えさせる。子供とどれだけちゃんと向き合っているかが問われるのです。

 話を聞いた家族のお父さんは、「仕事がない。でも一番(つら)いのは尊厳がないことだ」と言っていました。子供が外に出るとぶたれたり、喧嘩(けんか)になったりすることもあるそうです。家族にもほしいものを聞きました。お兄ちゃんも「尊厳」。家に帰りたい、国に帰りたいという気持ちも強いようでした。日本にいる時は、シリア難民はヨーロッパに行きたいという気持ちがあるのだと思っていましたが、違いました。一日も早く故郷に帰りたいのです。

家族の前で地雷が爆発

 トルコには約300万人のシリア難民がいます。トルコの言葉はトルコ語。アラビア語を話すシリア人とは言葉が違います。支援するには倍の労力がかかると思うのですが、トルコのキャンプはサービスの種類も多く、トルコ人の心の広さには驚きました。私たちは学ぶものがあると思います。

 「マイ・ハピネス」と呼ばれる町中のサポートセンターで、36歳と33歳の姉妹に会いました。9か月前、戦闘の激しいアレッポから、子供を連れて逃げてきた人たちです。

妹の夫は自宅前で地雷を踏み、子供たちの前で真っ二つになりました。私もいろんな戦地に行きましたが、家の前に地雷というのは、まずありません。でも、イスラム国はよくやるそうです。人を傷つけ、殺す手段として使うのです。

 姉も泣き()みませんでした。彼女の夫は刑務所の中で死にました。人にお金を払って、妹は4人、姉は3人の子を連れてアレッポを脱出したのですが、途中の山道でころんでしまい、膝に大きなけがをしてしまいました。トルコで難民登録をすれば無料で治療が受けられ、薬もただでもらえます。でも、書類や複雑な手続きが必要なので、登録ができず、まだ治療が受けられないのです。

 妹の2人目の子供(男の子)は普通ではなくなっていました。他の子はしゃべったり、物をあげたら受け取ったりしますが、その子は何も答えないし、目も合わせないんです。地雷の爆発を見てからそうなったようで、トラウマを抱え、悪夢からさめていないようでした。

【あわせて読みたい】
・トランプ米大統領、シリアを攻撃~巡航ミサイル59発
・思わぬ副作用が生じる可能性も…米シリア攻撃
・米国は「シリア和平」のバスに乗り遅れるのか?
・「人道主義」が招いた混乱、出口なきドイツ難民問題
・シリア攻撃、北の暴走 日本の防衛「3つの懸念」

2017年4月20日10:00 Copyright © The Yomiuri Shimbun