国際

シリア内戦、もう一つの危機

ユニセフ・アジア親善大使 アグネス・チャン

女の子は「柿の種」を分けた

  • トルコ・ガジアンテップ市内の住宅に身を寄せる一家。シリア・アレッポ出身で、5か月前に避難してきた。働けない父親に代わって、息子たちが家計を支えるが、体調がすぐれない長男は解雇されてしまった(c)日本ユニセフ協会/2017/S.Taura
    トルコ・ガジアンテップ市内の住宅に身を寄せる一家。シリア・アレッポ出身で、5か月前に避難してきた。働けない父親に代わって、息子たちが家計を支えるが、体調がすぐれない長男は解雇されてしまった(c)日本ユニセフ協会/2017/S.Taura

 トルコ南部のガジアンテップでは町中(まちなか)の家族を訪ねることができました。子供が6人。今回会った中で一番やせていた子供たちです。5か月前、アレッポからトルコに避難してきました。親戚も含め11人が4畳半ほどの部屋で暮らしています。

 子供の父親はアレッポで自宅が空襲を受けた時、倒れてきた壁で肩と肋骨を骨折して今は働けません。代わりに13歳の長男が働き始めたのですが、極端な栄養失調で仕事中に何度も倒れ、クビになってしまいました。彼が私に言ったのは「仕事をください」。どんな話題を振っても「仕事をください」だけしか言わないのです。辛かったです。

 持って行った非常食はみんな渡しました。みんなワーッて、すぐ食べようとしたけど、お母さんがダメと言うから食べませんでした。残った1袋の「柿の種」は小さな女の子にあげました。すると、その子は袋を開けて、みんなに分けたんです。これもこたえました。

「失われた世代」を生まないために

  • シリア難民の現状を語るアグネス・チャン氏(東京・高輪のユニセフセンターで)
    シリア難民の現状を語るアグネス・チャン氏(東京・高輪のユニセフセンターで)

 シリア難民の子供たちが「失われた世代」にならないよう、各国政府も応援してくれています。せめて教育は受けさせようということで、学校を午前と午後の2シフトにして、シリア難民を受け入れています。

 政府が先生の給料を出せない時は、いろいろな団体と手を携えて経済的な支援も行っています。公立の学校に入れない子供は、民間が運営する学校でその国のカリキュラムを使って学ばせるなど、あの手この手で学校に通わせようとしています。その結果、シリア難民で学校に通える子供は60%を超えました。

 今回驚いたのは、シリア国内でも子供たちを学校に通わせる取り組みが行われていることです。ユニセフが民間活動団体や町を仕切っている人たちと話し合ってやっています。例外はイスラム国の支配地域で、そこの子供たちは普通の学校に行けません。イスラム国の学校に行かされてしまいます。

 今回訪ねたヨルダン、レバノン、トルコといった国々は本当によくやっていると思いました。みなさんの寛大な気持ち。私はそこまでできるか。それは私たちみんなが自分に問いかけなければならないことだと思います。(談)(聞き手・メディア局編集部次長 田口栄一)

【あわせて読みたい】
・トランプ米大統領、シリアを攻撃~巡航ミサイル59発
・思わぬ副作用が生じる可能性も…米シリア攻撃
・米国は「シリア和平」のバスに乗り遅れるのか?
・「人道主義」が招いた混乱、出口なきドイツ難民問題
・シリア攻撃、北の暴走 日本の防衛「3つの懸念」

プロフィル
アグネス・チャン
 歌手、エッセイスト、教育学博士。1955年、香港生まれ。香港での歌手活動を経て72年、「ひなげしの花」で日本デビュー。78年、カナダのトロント大(社会児童心理学)卒。85年、北京チャリティーコンサート後のエチオピア難民キャンプ訪問を機に、ボランティアや文化方面にも活動の場を広げる。94年、米スタンフォード大で教育学博士号取得。98年、日本ユニセフ協会大使に就任。毎年のように海外視察を重ね、様々な危機に直面する世界の子供の実情を伝えている。2016年よりユニセフ・アジア親善大使。