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働き方 日産「ゴーン改革」から学ぶべきポイント

読売新聞調査研究本部主任研究員 榊原智子

従来の人事慣行覆す決定を次々に実施

  • グローバル戦略のマーケティングを担当するメンバーとゴーン氏(前列中央、2015年撮影)
    グローバル戦略のマーケティングを担当するメンバーとゴーン氏(前列中央、2015年撮影)

 これに対して、ゴーン氏は「ダイバーシティーはビジネスに有益であり、競争優位に立つチャンスをもたらすものだ」「日産の社内には女性もいるし、さまざまな年代の人もいる。活躍できるチャンスはあるのにもったいない」と社内で語りかけ、人材の多様な活用策を日産の成長戦略として重視する姿勢を明確にした。

 トップが意向を示しても、かけ声で終わることは多い。ダイバーシティー推進のエンジンとなったのが、04年秋に設置された専門部署「ダイバーシティ・デベロップメント・オフィス」だった。同オフィスで作った人材活用の企画案を、経営陣が議論する首脳会議も同時に発足した。

 「トップがメッセージを常に発信し続けた。社長自身がダイバーシティーを重要だと考えていることが社員にも伝わった。これが大きかった」。同オフィスの小林千恵室長は、そう振り返る。ゴーン氏は、社長講話や各事業所で現場担当者と交流するミーティングでも、多様な人材活用の重要性に繰り返し言及したという。

 そうしたなかで、ゴーン氏が目をとめたのが自動車購入者の分析データだった。国内の車両購入者のうち女性は3割だが、男性が購入する場合も半数近くは女性が意思決定に関与していて、購入全体の約6割で女性の関与があることを示していた。

 「女性が何を求めているかを理解し、商品やサービスをより魅力的にするために、今まで以上に社内の女性割合を高めることが重要だ。教育し、意思決定に参加させる必要がある」。ゴーン氏はそう強調し、(1)社内にアドバイザーを置いて女性のキャリア開発を支援する(2)出産・育児・介護と仕事の両立を推進する(3)管理職向けのセミナーなどでダイバーシティーの意識を定着させる――などの方針を公言した。

 人材の多様性を重視した経営は、日本でも外資系企業が始めていた。だが、当時の企業関係者の間では、「外資系だからできること」と言われていた。こうしたなかで日産の担当者は、欧米の先進事例を調べあげ、日本人が受け入れ可能な「形」を研究した。ダイバーシティーを取り入れていく過程では、方針に反発する男性社員らが退社することもあったという。

 ダイバーシティーを担当する部署の社内的な位置づけも、改革の推進に影響した。多くの企業で、ダイバーシティーの推進部署は人事部門に置かれている。それを日産ではトップ直属の独立部署としたことで、既存の人事慣行にとらわれない大胆な提案が可能になった。「それを最高意思決定機関で受けとめ、決めてくれる。迅速に実行する流れができた」と小林さんは話す。こうした社内体制の結果、在宅勤務の導入や社内託児所の設置、女性のキャリアアドバイザーの配置、販売・製造現場への女性進出などをスピーディーに実現できたという。

 ダイバーシティーを推進する首脳会議の議長はゴーン社長自身が務め、年4回の会議を通じて、従来の人事慣行を覆す決定を次々と行った。ゴーン氏自身がイニシアチブを発揮する場面もしばしばあった。「その仕事は女性には無理」などと言う役員には、「勝手に判断せず、まずきちんとやらせてみなさい」などと制することもあったという。「挑戦させなければ経験値が上がらず、経験値の低さが女性を昇格させない言い訳にされることをゴーンは知っていた。だから、チャンスを摘む言動や無意識の偏見にストップをかけていた」と小林さんは振り返る。

 商品開発でも具体的な成果が上がった。12年に発売した新型小型車「ノート」の開発では、商品企画責任者に初めて女性を起用したところ、大きく開く後席ドアなど、女性ならではの視点を生かした商品企画で大きな話題を集め、売り上げにも貢献した。そのほか、日々の業務改善や社員の自律、成長へのモチベーション(意欲)などの面でもさまざまな効果があらわれた。


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