国際

与党過半数割れ、視界不良のメイ政権とブレグジット

在英ジャーナリスト 小林恭子
 英国で6月8日に行われた下院選(定数650)は即日開票され、メイ首相率いる保守党が第1党を維持したものの、過半数を割り込む結果となった。改選前の330議席から議席を減らしたことで、メイ首相の責任を追及する声が党内外から沸き起こった。英国の欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)交渉も先が見通せなくなった。今回、なぜこういう選挙結果になったのか。今後のブレグジットの行方と合わせて、在英ジャーナリストの小林恭子氏に解説してもらった。

色あせた「メイ・ブランド」

  • 9日、選挙結果に耳を傾けるメイ首相(AP)
    9日、選挙結果に耳を傾けるメイ首相(AP)

 メイ首相が下院を解散し、総選挙を行うことを表明したのは今年4月。それまで「総選挙はやらない」と宣言していただけに、唐突な印象を受けた。

 しかし、メイ氏は選挙を経ずに首相に就任(昨年7月)したこと、当時の世論調査で保守党の支持率が野党第一党の労働党を約20ポイント上回っていたことから、「ブレグジット交渉に向けて、しっかりした基盤を作りたい」と述べ、選挙に打って出た。5月上旬には下院が解散され、選挙戦は火ぶたを切った。

 選挙戦当初は「ブレグジットを実行するための強く、安定した政権がほしいなら、私に投票してほしい」と“メイ・ブランド”を強調する作戦に出たが、選挙戦を通じて、そのブランドは次第に通用しなくなった。

 労働党は生活に直結する問題に重点を置き、コービン党首の気さくな語り口とあいまって次第に支持を広げた。その一方で、即興の受け答えが得意ではないメイ首相はいくつかのテレビ討論への出席を拒み、「強く、安定した政権」など定型の表現を繰り返したことで、「ロボットのようだ」という悪評が定着してしまった。

 選挙中、5月22日にはマンチェスター、6月3日にはロンドンと、英国は2回もテロに見舞われた。官邸前でテロ対策の強化を誓うメイ首相の姿は「強く、安定した政権」を体現するはずだったが、メイ氏が首相就任前に6年間、治安問題を担当する内相であったことに加え、保守党政権になってから約2万人の警察官が削減されていたことを労働党が指摘、現状に責任があるのはメイ氏であるとの認識が広がった。

 マニフェストに入れた「認知症税」も大きな批判を浴びた。現状では2万3250ポンド(約325万円)以上の資産を保有している高齢者は、介護費を自己負担しなければならない。保守党はこれを10万ポンドまで引き上げることを盛り込んだのだが、「資産」の中に自宅も入れたことで、有権者の大きな怒りを買った。住宅価格の高騰で資産額がこの金額に達する世帯が少なからずいたのである。

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