国際

賭けに負けたメイ首相、深まる英国の先行き不透明感

読売新聞メディア局編集部次長 中村宏之
 英国で8日、行われた総選挙は、与党・保守党が第一党にとどまるものの、過半数の議席を維持できない結果となった。英政界は、どの政党も過半数を取れない「ハングパーラメント」(中ぶらりん議会)の状態となる。英国がハングパーラメントに直面するのは、2010年の保守党と自由民主党の連立以来だ。

介護負担増に反発、テロも逆風に

  • 9日、選挙結果を聞くメイ首相(AP)
    9日、選挙結果を聞くメイ首相(AP)

 そもそも今回の総選挙は、昨年6月の欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票の結果を受けて引責辞任したキャメロン前首相を引き継いだメイ首相(保守党党首)が、本来は2020年に行われる予定だった選挙を前倒しで実施した。政権基盤の強化を図り、欧州連合との離脱交渉に強気の姿勢で臨もうと賭けに出たものだ。

 しかし、保守党の公約に対する有権者の予想以上の反発や最大野党・労働党の健闘、相次ぐ国内テロなどの誤算や想定外の事態が連鎖して起こり、メイ首相の目算は大きく狂う結果となった。

 選挙戦の開始当初は、労働党のコービン党首の支持率は低く、また昨年の国民投票の時に離脱回避に向けたリーダーシップを発揮しなかったという批判も強かった。こうした状況の中、メイ首相は、労働党を大きく引き離して勝てると見込んでいたが、保守党が選挙公約で打ち出した介護サービス費用の個人負担増の方針が有権者から大きな反発を受けた。さらに、ロンドンやマンチェスターなどで相次いだテロ事件が、警察・防衛予算の過度な縮減を行った保守党政権の責任であるとの批判を浴びた。国内の治安対策にあたる内相を長年務めたメイ氏への不信も相まって、選挙戦の中でじりじりと労働党に詰め寄られていた。

 今回の選挙結果でメイ首相の求心力が低下するのは避けられず、責任問題を問う声が広がる可能性もある。6月中にも始まる予定だったEUとの離脱交渉にも影響が出るのは必至で、大和総研の山崎加津子・主席研究員は「保守党の離脱問題に対する方針が変わるのか、変わらないのか、ここが今後の大きなポイントになる」と指摘する。

 金融市場にも影響が出ており、9日の外国為替市場では主要通貨に対してポンドが売られた。今後の英国経済に与える影響について、野村証券の岸田英樹・シニアエコノミストは「市場の動きは、今後どういう政権ができるのかという不安を反映している。ただ過半数がとれなくても保守党が中心となる政権になれば、これまでの強硬離脱(ハードブレグジット)の方向性は大きく変わらず、中期的には経済にはネガティブに働くだろう」との見通しを示している。

プロフィル
中村 宏之( なかむら・ひろゆき
 読売新聞メディア局編集部次長。経済部などで長く国内外の経済報道にあたり、ロンドン特派員、ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より現職。主な著書・共著に『御社の寿命』『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』(いずれも中央公論新社)、『ドキュメント 金融庁vs.地銀 生き残る銀行はどこか』(光文社)などがある。