国際

「高官」不在…なり手がいない? トランプ外交

読売新聞調査研究本部主任研究員 大内佐紀

高官不在、財務省や司法省でも

 政府の高官不在は、国務省にとどまらない。財務省や司法省といった主要省庁も「骨と皮しかない状態(skeleton)」(米メディア)だといえる。

 世界随一の超大国の政府高官として、内外の政策を形作る――。やりがいはもちろん、その後のキャリアにも確実にプラスになり、本来ならば垂涎(すいぜん)の的であるはずのポストでなぜ、「求人」が進まないのか?

 6月17日付のワシントン・ポスト(電子版)は、大統領が所属する共和党系の元政府高官やロビイストですら、政権入りを打診されても断っているとした上で、彼らがポストを辞退した主な理由として、「トランプ氏の人柄とこれまでの政権の混乱」を挙げた。

 有力候補者たちは、連邦捜査局(FBI)長官だったジェームズ・コミー氏が「忠誠心」を問われてトランプ氏に解任された状況などを注視している。大統領がツイッターなどで部下を批判すればするほど、「今、政権入りしたら、逆に自分の経歴に傷をつけることになり、得策ではない」「部下を守らないボスの下で働くのは大変だろう」との判断に傾くというわけだ。

 また、ポスト紙は複数の候補者の声として、「政策の方向性がしょっちゅう変わる政権の中で、果たして何ができるかを自問している」と指摘する。特に、自由貿易主義者が多い共和党員の中で、トランプ政権の保護主義的な通商政策に疑問を持つ人は少なくない。

 また、「自分も巨額の弁護士費用を支払わないといけない事態に陥るのではないか」という訴訟社会ならではの不安もあるという。在任中の政策判断や行動を理由に訴えられたら困る――という発想だが、トランプ氏の「ロシア疑惑」をめぐり、同氏やセッションズ司法長官が相次いで顧問弁護士を雇い入れている状況を見ると、一概に笑えない話だろう。トランプ氏が「無駄の削減」を打ち出したことから、「自分が就くポストは、そのうち削減対象になるのではないか」という不安も政権入りをためらう要因だ。

 もちろん、ホワイトハウスは反論する。スパイサー報道官は「ホワイトハウスの人事担当者と話したいといって、私の部屋のドアをたたく人は引きも切らずだ」と抗弁している。

限られたプレーヤーに外交案件が集中

  • ティラーソン国務長官(ロイター)
    ティラーソン国務長官(ロイター)

 日米関係に当面の影響は少ないとして、今後はどうなのだろうか?

 ある外務省の幹部は最近、こんな話を聞いたという。米国務省の若手職員が最近、張り切っている。自分が立案した政策案があれよあれよと言う間にティラーソン長官まで上がり、あっという間に裁可されるからだ。「政策案が官僚機構内を上がっていく過程で、本来、要所要所で入るチェック機能が働いていないということだ」と同幹部は見る。

 外交に従事する高官が少ないため、ティラーソン長官やトランプ大統領の娘婿クシュナー大統領上級顧問ら、ごく限られたプレーヤーにあらゆる外交案件が集中している。そうした現状についても、「いつまでも続けていいものではない」との指摘も出ている。

 「米国はただの国ではない。世界に影響を及ぼす大国だ。早く、普通の状態になってほしい」――。外務省幹部のこの感想は、世界各国で外交を担う当局者に共通の願いなのかもしれない。

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プロフィル
大内 佐紀(おおうち・さき)
 読売新聞調査研究本部主任研究員。1986年入社。主に国際報道に携わり、ワシントン、ジュネーブ、ロンドン各特派員。英字紙ジャパン・ニューズ編集長、編集局次長などを経て2017年6月から現職。