国際

南シナ海、足場固める中国と危機感強める米国

防衛省防衛研究所主任研究官 飯田将史

遠方への展開能力が向上

――3番目の「米国をこの地域から追い出す」という中国の長期的な目標は非常に気になりますね。

 中国が今、米軍と相まみえるだけの力があるかというと、そこまではないと思います。ただ、中国軍の能力が向上しているのは間違いありません。米軍が、過去と同じレベルで安心して行動できなくなっているのは事実だろうと思います。

  • 大連港で進水した中国初の国産空母(今年4月26日撮影)
    大連港で進水した中国初の国産空母(今年4月26日撮影)

――中国軍の能力の向上ということですが、具体的にはどういった点ですか。

 海軍でいえば、初めての純国産空母が進水したことです。数年後に就役することになると思いますが、象徴的な能力の増強ということになるでしょう。

 もうひとつ、055型と呼ばれる1万トン級の大きなミサイル駆逐艦が先月、進水しました。そう遅くないうちに就役してくると見られます。

 中国海軍における水上艦艇の戦力投射能力、つまり、遠方に戦力を展開してそこで作戦を遂行する能力が着々と上がってきているのは間違いありません。

 航空機で言えば、J20というステルス戦闘機が就役したと言われています。また、Y20という大型輸送機が就役しました。今後、これは輸送機としてだけではなく、空中給油機とか、早期警戒管制機といった多用途機のベースになると考えられています。空軍も、やはり遠くの空域で作戦を行う能力を高めてきています。

 こうした兵器は、南シナ海への戦力投射能力を高める上で、非常に重要ではありますが、空母や1万トン級の駆逐艦は、南シナ海よりもさらに遠くで活動することが想定されています。ひとつは西太平洋、もうひとつの方向はインド洋方面、将来的にはそういった方面に出ていくことが十分考えられます。

トランプ政権も基本姿勢は同じ

  • 主要20か国(G20)首脳会議出席のため訪れたドイツで、中国の習近平国家主席(右)と会談した米国のトランプ大統領(ロイター)。トランプ政権は「航行の自由作戦」を2回行っている
    主要20か国(G20)首脳会議出席のため訪れたドイツで、中国の習近平国家主席(右)と会談した米国のトランプ大統領(ロイター)。トランプ政権は「航行の自由作戦」を2回行っている

――中国に対抗する力を持つ国は米国しかありません。オバマ政権からトランプ政権になり、南シナ海問題に対する姿勢に変化はありましたか。

 基本は変わっていないと思います。オバマ大統領の時代、1期目から2期目の中頃までは中国に対してかなり妥協的な対応をとっていました。

 ところがこの時期、米国の防衛外交に関するエスタブリッシュメント、つまり政府の役人・軍人や専門家、議員らの間で、中国の戦略的な意図に対する警戒感が高まってきました。そうしたコンセンサスの影響を受けて、オバマ大統領も「リバランス」(再均衡)と言い出し、太平洋の西側にも関心を向けるようになりました。

 オバマ大統領のリバランスに対し、トランプ陣営は口ばかりで実際の行動が伴っていなかったと批判しました。それなりに的を射た評価かなと思います。米国が軍の艦船や航空機を派遣して自由に航行できることをアピールする「航行の自由作戦」を始めたのは2015年10月でしたし、フィリピンとの関係再構築に乗り出したのも2期目のことでした。

 トランプ政権も「航行の自由作戦」を継続し、これまで2回行いました。南シナ海問題に関して、中国に対する警戒感は米国のエスタブリッシュメントの間では共通認識になっているので、大統領がだれであろうと政策は大きく変わらないのです。

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