経済

「西洋」の価値は崩れるか?ビル・エモット氏に聞く

元エコノミスト誌編集長 ビル・エモット
 国際的なジャーナリストで、英誌エコノミスト元編集長のビル・エモット氏が新著『「西洋」の終わり』(日本経済新聞出版社)を出版した。日本を含む西側先進国の繁栄の基盤となり、民主主義を支えてきた「西洋」の理念や価値観が自壊しようとする中、それを避けるために、いま何をすべきかを洞察した。邦訳版の出版にあたり来日したエモット氏に聞いた。(聞き手・読売新聞メディア局編集部次長 中村宏之)

「開放性」の危機

――本書執筆の動機はどんなことだったのですか。

  • ビル・エモット氏
    ビル・エモット氏
  • エモット氏の近著『「西洋」の終わり』(日本経済新聞社刊)
    エモット氏の近著『「西洋」の終わり』(日本経済新聞社刊)

 私たちの世代は両親から受け継いだ西洋のオープンな自由民主主義の恩恵を受けており、欧州、日本、アメリカも自由で繁栄していますが、私たちが得たものに対する危機が迫っているのではないかと考えました。2008年の金融危機以降、私たちの自由民主主義は、特に欧米で悪い方向へと向かっているのではないか。それは最近の政治的傾向性や、ドナルド・トランプ米大統領の誕生、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、欧州の急進政党の台頭などによってもたらされ、システムそれ自体に危険性を内包しているものと思います。

 私たちをつないできたもの、たとえば北大西洋条約機構(NATO)、日米同盟、世界貿易機関(WTO)なども影響を受けている。私はこの本で状況を分析して書くことで、自由民主主義について根本的な原則を説明すること、そしてこのシステムを守り、人々を説得するために議論することが大切だと考えました。この本は一種の分析であり、第2次大戦後の西洋の価値観を擁護する一冊でもあります。

――完成にどれぐらいの時間がかかりましたか。

 約2年といったところでしょうか。書くことは早くできましたが、リサーチや考察に時間がかかりました。また、昨年11月のトランプ氏の大統領選勝利を受けて、いくつかの章を急きょ改稿しないといけなくなりました。

――本書を流れる「西洋の価値観が危険にさらされている」という認識は非常に印象的です。日本も民主主義国家としてその価値を共有してきました。

 開放性(Openness)、それはつまり我々を強くしてきたものであり、世界各国とアイデアを交換し、開放された市場で競争を繰り広げてきましたが、その開放性については、もたらされる恩恵よりも、それを恐れる人々によって今は批判されています。トランプ米大統領は貿易や移民に障壁を設けることを提案していますし、欧州も似たような考え方が起こりつつあります。しかし、それは正しくありません。開放性は疑いなく有益ですし、人々が等しくその恩恵を受ける機会の平等性(Equality)につなげなければなりません。

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