社会

犯罪者を遠ざける、子どもに安全な場所の作り方

立正大教授 小宮信夫
 「不審者に気をつけて」。子どもの防犯指導でよく言われてきた言葉である。しかし、今年3月に千葉県松戸市で発生した女児殺害事件で逮捕された容疑者は、子どもたちの登下校の見守り活動を行っており、「不審者」とは認識されにくい立場だった。防犯に詳しい立正大の小宮信夫教授は、不審者に的を絞った防犯対策には限界があり、「犯罪をしにくい環境づくり」が有効だと指摘する。

「不審者」は見抜けない

  • 保護者付き添いで登校する子供たち。4月、千葉県松戸市で
    保護者付き添いで登校する子供たち。4月、千葉県松戸市で

 私は時々、小学校で授業を行っているが、子どもたちに「どんな人が不審者だと思うか」と聞くと、ほとんどの場合、「サングラスやマスクをしている人」という答えが返ってくる。しかし、そうした姿で誘拐などの子ども相手の犯罪に及んだ例は聞いたことがない。これでは、子どもたちは「普通の格好の人」にだまされて、ついていく。

 実際、1988~89年に埼玉県と東京都で発生した連続幼女誘拐殺人事件も、1997年の神戸市連続児童殺傷事件も、2004年の奈良女児誘拐殺人事件も、だまされて連れ去られたケースだった。松戸市の女児殺害事件で逮捕された保護者会長も、子どもから見れば「親切そうな人」「知っている人」であり、決して「怪しい人」ではなかったはずだ。犯行の動機があるかないかは見ただけでは分からない。「不審者に気をつけて」と言われてそのように心がけたとしても、犯罪者を見抜けるわけではない。

 それでもなお、「不審者」に注目し続ける日本の防犯対策に比べ、実効性を重視するのは、海外の取り組みだ。犯罪を起こりにくくする「場所づくり、環境づくり、まちづくり」が活発に行われている。

 犯罪学では、こうしたアプローチを「犯罪機会論」と呼んでいる。犯罪は、犯行の動機があるだけでは起こらず、動機を抱えた人間が犯罪の機会、言わば「チャンス」に出合ったときに初めて起こる。つまり、犯罪者の動機をなくせなくても、犯罪の機会を与えなければ、犯罪を防げるともいえる。「機会なければ犯罪なし」である。日本では、あまり知られていない方法論なので、ここで紹介したい。

犯罪のチャンスを奪え

  • 写真はイメージです
    写真はイメージです

 海外では、「不審者」に当たる言葉は使われていない。防犯のために注目するのは、「人」ではなく、「場所(景色)」である。「危ない人」は見ただけでは分からないが、「危ない場所(景色)」は見ただけでも分かる。犯罪者は、周辺の景色を見て犯罪が成功するかどうかを判断すると言われる。その基準は「入りやすいかどうか」「周囲から見えにくいかどうか」だ。

 「入りやすい場所」では、犯罪者は容易にターゲットに近づくことができ、すぐに逃げることもできる。「見えにくい場所」では、余裕を持って犯行を準備することができ、犯行そのものも目撃されにくい。

 このような場所で犯罪が起きやすいなら、対策は「入りにくく、見えやすい場所づくり」ということになる。犯罪者が周囲の景色を見たときに、「犯罪は失敗しそうだ」と思い、あきらめるような場所にするというわけだ。これが、犯罪機会論に基づく「防犯まちづくり」である。海外では、住宅、道路、学校、公園、駅、乗り物、トイレ、病院、スタジアム、ショッピングモールに至るまで、犯罪機会論に基づくデザインを採用した街が少なくない。

 私は7年をかけて、世界92か国を歩き回り、「安全な街の景色」を集めてきた。それらを写真集としてまとめ、『写真でわかる世界の防犯――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)として出版した。その中からいくつかの例を紹介しよう。

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