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介護職場に学ぶ「辞めさせない」戦略とは

リクルートキャリア 藤井薫、繁内優志

離職は「お金」より「職場環境」

 介護業界は、深刻な人手不足に悩まされている。厚生労働省の調査などによると、全国の介護職員の数は2013年度で約171万人。25年度には215万人に増加する見通しだが、高齢化に伴う介護需要に対応するためには、同年度に253万人の介護人材を確保する必要があるとされる。つまり、あと8年のうちに38万人の需給ギャップを埋めなければならないのだ。

 一方で、介護業界の人材定着率は低い。公益財団法人「介護労働安定センター」の15年度の調査によると、介護業界の離職率は16.5%。低下傾向にはあるものの、全業種の平均離職率(15.0%)より高くなっている。とりわけ離職者の在籍年数を見ると、「3年未満」が7割を超えており、若い介護職員の定着率が低いことが業界全体の大きな課題になっている。さらに、離職者の約6割が再就職先として介護以外の仕事を選んでいるというデータもあり、介護業界を支える人材が思うように増えない理由にもなっている。

 なぜ、彼らは介護の仕事から離れていってしまうのか。「仕事が大変なわりに、給料が低いせいでは」と考える人もいるかも知れない。ところが、必ずしもそうではないようだ。

  • 介護労働安定センター「平成27年度図表解説 介護労働の現状」より
    介護労働安定センター「平成27年度図表解説 介護労働の現状」より

 同センターが16年度、仕事を辞めた介護職員を対象に行ったアンケート調査によると、退職理由として最も多かったのが「職場の人間関係に問題があったため」で25.4%。「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」が21.6%、「他に良い仕事・職場があったため」が18.8%で続き、「収入が少なかったため」は17.0%で4番目だった。つまり、仕事を辞める理由としては、「お金」よりも、職員同士の人間関係など「職場環境」に起因することが多いのだ。

「モチベーション研修」で再びやりがい

 介護業界では、こうした現状を改善し、職員の仕事への満足度を高めて離職を食い止めようという試みが始まっている。

 その一つは、「ロボットやIT機器の導入」だ。仕事の満足感を高めることは、負担感を減らすことと表裏一体の関係にある。介護職員にとって、入所者の入浴・排せつの支援、夜間の見守り、介護記録の入力といった作業は肉体的・精神的負担が大きいとされる。ロボットや機器類を導入することでこれらの負担を軽減し、「仕事がきつい」といった理由で離職するケースを減らし、職場の雰囲気を良くすることが期待されている。HELPMAN JAPANの調査でも、ロボットを5種類以上導入している施設では、従業員満足度が62.8%と、未導入の施設より20ポイントも高かった。実際に、離職率低下の成果を上げている施設も少なくない。

 二つ目は、職員の士気を高めるための「モチベーション研修」の導入だ。一例を挙げると、都内で特別養護老人ホームなどを運営する、ある社会福祉法人は、毎年、長野県軽井沢町で4泊5日の研修を行っている。この研修では、難しい講習などは一切行わない。参加した職員たちは期間中、一緒に料理を作ったり食べたりしながら、ひたすらのんびりと過ごす。そして、仕事のことをいったん頭から切り離して、今までの人生で楽しかったことや(つら)かったこと、そして、介護の仕事を志した時のことなどを振り返り、悩みを打ち明け合う。こうした過程を経ることで、仕事へのやりがいを再び見いだす職員が多いという。

 介護業界で行われている研修は、現場での技術に関するものがほとんどだ。職員のモチベーションや職場環境に関する研修は、すぐに目に見える効果が出にくいため、実施する事業者は少なかった。ところが、HELPMAN JAPANの調査で、技術的な内容以外の研修を実施している事業者ほど、介護職員の離職率が低いことが分かった。また、技術系の研修と、それ以外の研修(モチベーション研修など)の両方を受講した従業員の仕事への満足度は54.0%と高く、いずれか一方の研修を受講した従業員の満足度を12ポイントも上回る結果が出ている。

 三つ目は、「職員間の連帯感を醸成する試み」である。実は今、介護業界では面談制度や表彰制度など、職員同士が相互に気持ちを伝え合う仕組みの導入がブームになっている。その一つが「ありがとうカード」という取り組みだ。職員が仕事を終えて退社する際、その日に仕事で助けてもらった同僚のタイムカードの裏に「ありがとう」と書かれたカードを貼り付けておく。日々、慌ただしく働く介護職員たちは、お互いに面と向かって「ありがとう」と声を掛けたり、気持ちを伝え合ったりする機会はそう多くはない。「ありがとうカード」を貼ってもらった職員は、仕事の喜びややりがいをあらためて感じることになる。それによって施設内の人間関係が円滑になり、離職率の低下につながったという成果が、多くの施設で見られ始めているという。

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2017年8月9日07:50 Copyright © The Yomiuri Shimbun