教育

フィンランドの教育改革・下 職業人を育てる

読売新聞論説委員 古沢由紀子

「スタートアップ」の精神

 IT関連などのスタートアップ(新興)企業が次々に生まれているフィンランド。起業家精神を育む取り組みは、国立の大学でも行われている。

  • 国立アールト大学では、学生たちが考案した商品などの発表会が開かれていた(エスポー市で)
    国立アールト大学では、学生たちが考案した商品などの発表会が開かれていた(エスポー市で)

 北欧を代表する建築家、アルヴァ・アールトの名を冠し、ヘルシンキ工科大などを再編した国立アールト大学には、学生による起業家支援団体がある。中心メンバーの大学院生、キャスパー・スオマライネンさん(26)によると、米シリコンバレーなどに留学した学生らが帰国後に大学に要望し、学内の建物を共有オフィスとして無償で使えるようになった。著名な起業家らを招いた講演会やシンポジウムを企画するほか、世界から起業家が集まる大規模イベント「スラッシュ」の運営にも携わる。7週間にわたり、新興企業の経営者や学生らがビジネスを学ぶ講座「スタートアップ・サウナ」も好評だ。ユニークな名称は、蒸気ならぬ新たなアイデアが湧き上がる様子と重なる。

 工学や経営、デザイン系の学部があるアールト大学では、起業に関する授業も充実しており、取材に訪れた日には、学生たちが開発した製品デザインを企業向けに発表する催しが開かれていた。

職業体験施設を活用

 昨秋に導入されたフィンランドの小中学校の新カリキュラムは、起業も意識した職業教育に力を入れている。

  • 職業体験施設「ミー・アンド・マイシティー」には、様々な企業のブースが並ぶ(ヴァンター市で)
    職業体験施設「ミー・アンド・マイシティー」には、様々な企業のブースが並ぶ(ヴァンター市で)

 ヘルシンキ近郊のヴァンター市にある職業体験施設「ミー・アンド・マイシティー」を見学した。国内8か所に同様の施設があり、1年間にフィンランドの6年生の7割にあたる約4万人が来場する。学校ごとの参加が基本で、今後は中学3年生にも対象を広げる。

 博物館の一角を改修したヴァンター市の施設は簡素で、体育館のようなホールに箱形のブースが並ぶ。内部には机やパソコン、販売するための商品などが置かれ、実在の会社が協力している。「ノキア」「サムスン」といった有名企業のほか、スーパーや電力会社、病院などのブースも軒を連ねていた。

 子どもたちは、事前に学校で約10時間の授業を受け、経済や銀行、広告の役割などを学ぶ。納税の学習も必須なのは、高福祉の国ならでは。職業体験では、希望した勤務先の従業員として会議に出たり、商品を販売したり。給与として得た通貨で買い物をし、税金を払い、投票もする。手元のタブレット端末を見れば、各企業の業績や仕事の課題が分かる。

 取材に訪れた日は、市内のマルティンラークソン小中一貫校に通う6年生が参加していた。ノキアのブースにいたヌッティ君(13)は、「会社の仕組みが何となく分かった。進路は決めていないけれど、ITに興味があり、今回の体験は役に立つと思う」と話した。ヘルメット姿で電力会社の仕組みを学んでいたエリカさん(13)は、「将来は最高経営責任者(CEO)になりたい」と意欲的だった。

 子どもたちを引率したヤロ・バラミエス教諭(42)によると、中学の現代社会の授業では、学級ごとに会社を作り、教師の車を洗って収入を得るといった起業体験に取り組む。「こうした施設に来れば、さらに幅広い体験ができる」と話していた。

 産業界と学校を結びつけることを目的とした非営利団体が施設を運営しており、隣国スウェーデンにもノウハウを「輸出」するという。

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