文化

大宅賞作家が記録した3・11後の「霊体験」

読売新聞メディア局編集部 伊藤譲治

「一人に3回以上聞く」を取材ルールに

 聞き取り取材は12年の10月頃から始めた。当初は都市伝説のような「幽霊(たん)」ばかりで、「霊体験」を証言してくれる人が現れたのは、取材を始めて1年くらいたってからだった。

 異色のテーマだったため、「一人の語り手に3回以上話を聞く」という取材ルールを自ら設定した。「事実かどうか、自分を納得させる理論が必要だった。長年この世界でやってきたので、3回会えばその人がウソをついているかどうかはわかるだろうと思いました」

 最初はただ話を聞き、2回目になって、初めて質問を口にした。「1回目はひたすら聞くだけです。普通は3時間ぐらいですが、もっと聞くときもある。お昼ごろから始め、夕方になっても終わらず、食事しながらまだしゃべっていた、というケースもありました。2回目で最初に聞いた話を整理して、不足部分や疑問点などを聞き返す。3回会うと、けっこう親しくなっているので、それまでしゃべれなかった部分も聞けるようになる」という。

話すことができなかった「霊体験」

  • 岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」の前で黙とうする人たち(2016年3月11日撮影、※本文とは直接関係ありません)
    岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」の前で黙とうする人たち(2016年3月11日撮影、※本文とは直接関係ありません)

 会って驚いたのは、霊体験を親しい人以外、誰にも話していなかったことだという。「話さなかったのではなく、話すことができなかったのです。語ることで、死者とともに生きようとしているんだと思いました」

 トータルで約30人から取材し、そのうち18人の体験を取り上げた。体験談は原則として実名にした。「家庭の事情で2人だけ仮名にしましたが、あとは実名です。原稿はすべて事前に、当人に見せました。モノローグのストーリーなので、あとで違っているといわれるのは困るので」

 東日本大震災は阪神大震災と比べると、霊体験がきわめて多いのだという。「知り合いにも調べてもらったのですが、阪神大震災ではほとんど聞きません。なぜかはわからないが、それぞれの地域の宗教文化の違いなのかもしれない」と推測。「『ナツコ』の取材の際、沖縄戦でジャングルを逃げ惑った人たちが、亡くなった親や兄弟の霊に導かれ、助けられたといった話をたくさん聞いた。沖縄にはユタがいるし、東北にはイタコやオガミサマがいる。沖縄と東北の宗教的な背景が似ているからかもしれません」と語る。

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