社会

一瞬で沈む水難事故…救助は「浮いて待て」

水難学会会長 斎藤秀俊

子どもはプールが浅いと錯覚する

 プールでの事故は、警察庁の統計によると、昨年は死者が9人と水難事故全体の1・1パーセントでした。ただ、死亡にまでは至らず、記録されなかった事故の報告は多数寄せられており、危険は決してないわけではないという印象です。

溺れるのは子どもが多く、場所は普段使い慣れた学校のプールでは少なく、公営、民営のアミューズメントプールが多いのです。

 報告される事故のほとんどが、プールに到着して最初に水に入るときに起きています。状況も多くは似通っています。親1人で2人以上の子どもを連れているケースです。親は年下の子を優先して面倒みることになりますが、プールに着くと、1人で行動できる年上の子どもがプールに早く入りたがり、先に1人でプールに向かってしまいます。「流れるプール」や「波のプール」などではなく、比較的すいている50メートルプールに走って近づき、飛び込んでしまうのです。50メートルプールは競泳用がほとんどで、水深も深いため溺れてしまうのです。

 子どもが深いプールに飛び込んでしまうのには理由があります。子どもは大人よりもプールの底が浅く見えているのです。

 人がプールの底を眺めたとき、視線を向けたまっすぐ先にプールの底があるはずだと思って見ています。しかし、空気と水では光の屈折率が違うので、誤差が生じ、見えていると思っている底は実際の底よりも浅いのです。視線の水への入射角が高いほど、その誤差は少なくなり、逆に視線の入射角が低ければ誤差は大きくなります。そのため、子どもの目には一層、底は実際よりも浅く見えるのです。

 事故を防ぐためには、プールに入るときは後ろ向きで手をプールサイドにかけ、足からゆっくりと入り、足がつかなければ手で使ってプールから上がる入水方法を子どもに徹底して教えておくことです。

 水難事故に遭う人の共通点で多く見られるのが「思い込み」と「知識不足」です。海では「砂浜なら危険は少ないだろう」「浮輪で遊んでいて流されることはないだろう」、川やプールでは「浅いはずだ」と思い込んだからです。水難学会は水難事故の調査を行い、原因を調べ、防止策を公表しています。過去の悲惨な事故から得られた教訓を生かさなければ意味がありません。思い込みを防ぎ、危険を回避するために、正しい知識を身につけてください。

【あわせて読みたい】
・実は、交通事故より多い家庭内の死亡事故
・有毒「ヒアリ」、パニックを防ぐ三つのポイント
・身に覚えのない痴漢、世間の対処法は通用しない

プロフィル
斎藤 秀俊(さいとう・ひでとし)
 1990年、長岡技術科学大学大学院博士課程修了。米国ペンシルベニア州立大学博士研究員、茨城大学工学部助手、長岡技術科学大学助教授を経て2003年から教授。2011年から水難学会会長。専門は材料科学、水難救助学。全国各地で起きた水難事故を調査しているほか、着衣泳の指導など水難事故への対応策の普及・指導を行っている。

2017年8月12日09:30 Copyright © The Yomiuri Shimbun