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欧州ワイン・チーズ関税軽減へ、国内産地も歓迎?

ジャーナリスト 猪瀬 聖
 チーズをつまみながらワインで乾杯、それも本場の欧州産で――。日本と欧州連合(EU)のEPA(経済連携協定)交渉が大枠合意し、人気の欧州ワイン、チーズの関税が引き下げられる見通しとなった。消費者が歓迎の声を上げる一方で、国内の生産者には厳しい状況も予想される。日本の産地はいかに立ち向かうのか。ワインに詳しいジャーナリスト・猪瀬聖さんが解説する。

輸入チーズの関税は約30%

  • 日本人にも「通」が多いワインとチーズ(写真はイメージ)
    日本人にも「通」が多いワインとチーズ(写真はイメージ)
  • EPA大枠合意で握手を交わす安倍首相(左)とトゥスクEU大統領
    EPA大枠合意で握手を交わす安倍首相(左)とトゥスクEU大統領

 日本とEUのEPA交渉が7月に妥結し、早ければ2019年にも発効する見通しだ。日本の消費者は、輸入関税の引き下げや撤廃による欧州産のワイン、チーズの値下がりに期待を寄せるが、一方で国内のワイナリーやチーズ生産者にとっては、大きな脅威となる可能性もある。

 現在、輸入ワインには、輸入価格の15%か1リットルあたり125円のうち、どちらか安い方が関税として価格に上乗せされている。ボトル1本あたりだと、最大で93円になる計算だ。EPA発効後はこの上乗せ分がなくなる。

 一方、輸入チーズには現在、輸入価格に対し原則29.8%の関税が課せられている。EPA発効後、日本で人気が高いカマンベールやモッツァレラなどのソフトタイプについては、低関税で輸入できる枠を設け、その枠内で税率を徐々に引き下げる。枠は、初年度が2万トンで、税率がゼロになる16年目は3万1000トンにまで拡大する。チェダーやゴーダなどハードタイプは、全量が関税引き下げ対象となり、ソフトタイプと同様、段階的に引き下げられる。

 これらの措置はワインとチーズ、それぞれの国内産地にどんな影響を与えるのだろうか。

「デイリーワイン」チリ産が席巻

 ワインの関税撤廃に関して、国内のワイナリーは比較的冷静な反応だ。その理由を、山梨県南アルプス市のワイナリー「ドメーヌ・ヒデ」の渋谷英雄社長は、「日本ワインと輸入ワインは、市場ですみ分けができているから」と説明する。

 関税撤廃の影響を最も受けると予想されているのは、小売価格が1000円以下のいわゆる「デイリーワイン」だ。理由は第一に、デイリーワインは小売価格に占める関税の割合が大きいため、関税の上乗せ分が消えれば小売価格が大きく下がる可能性があること。第二に、デイリーワインを好んで買う層は価格に敏感であることから、わずかな価格差でも売れ行きを大きく左右することだ。

 それを証明したのがチリワインだ。輸入ワイン市場は長年、フランスが1位の座を維持してきたが、15年に初めてチリに抜かれ、その差は昨年、さらに拡大した。フランスに次ぐ輸入量を誇っていたイタリアやスペインも、チリに押されて苦戦を続けている。

 チリワインが伸びているのは、07年に発効した日本・チリEPAのおかげで、関税の税率が下がってきていることが大きい。EPA発効後のチリワインの輸入量は、それ以前の5倍に膨張した。EPA発効前は15%だった税率は、現在では2.3%まで下がり、19年にはゼロになる。

 日本・EUのEPA発効で関税のハンディキャップがなくなれば、EU各国のワイナリーが、日本のデイリーワイン市場で巻き返しに出るのは必至だ。1本500~1000円のワインは、日本の販売数量全体の約半分を占めるだけに、小売店も巻き込んでの激しいシェア争いが繰り広げられるのは間違いない。

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