経済

「黒革の手帖」に学ぶ銀座のママのマネジメント力

読売新聞調査研究本部主任研究員 高橋徹
 東京・銀座の高級クラブを舞台にしたテレビ朝日系のドラマ「黒革の手帖」(松本清張原作)で、自身の才覚ひとつでのし上がっていく若いママを女優の武井咲(23)が好演している。政財界や文壇の大物が足を運ぶ銀座の高級クラブを経営するには、並みいるホステスや男性従業員たちを統率するリーダーシップに加え、景気の変動を乗り切る難しい経営手腕が求められる。ドラマの放送で再び脚光を浴びている<銀座のクラブ>の知られざる実態と、ビジネスマンにとっても参考になるママたちのマネジメント力に、読売新聞調査研究本部の高橋徹主任研究員が迫った。

銀座は「夜のメジャーリーグ」

  • ドラマ「黒革の手帖」で、武井咲(中央)が銀座のママを好演している(テレビ朝日提供)
    ドラマ「黒革の手帖」で、武井咲(中央)が銀座のママを好演している(テレビ朝日提供)

 「黒革の手帖(てちょう)」は、これまで何度もテレビドラマ化され、山本陽子、浅野ゆう子、米倉涼子らの名女優が主人公の原口元子を演じてきた。

 現在放送されているドラマで元子は、親が背負った借金の返済のため、昼は銀行の派遣社員、夜は銀座のクラブ「燭台(しょくだい)」のホステスとして働く女性と設定されている。

 派遣契約の打ち切りを告げられた元子は、銀行の架空名義口座を「黒革の手帖」に書き写し、そこから不正に得た資金を元手に、銀座の一等地にクラブ「カルネ(carnet=仏語で手帖の意)」をオープンさせる。銀座のママになってからの元子は、「お勉強させていただきます」を決めゼリフに、腰が低い勉強熱心なママとして上客を次々につかみ、夜の銀座で存在感を増していく――という内容だ。

 ドラマは犯罪に手を染めた女性を主人公に据え、清張作品ならではのサスペンス要素を売り物にしているが、<銀座のクラブ>の実態を細部にわたって描いている点も話題の一つだろう。

 物語は、銀行から横領したカネをもとに銀座に店を開くという設定になっている。1978年に週刊誌の連載がスタートした原作では、元子が手にした金額は計7568万円だったが、現代風にアレンジした今回のドラマでは1億8000万円に跳ね上がった。実際問題、それほど多額の資金が必要なのだろうか?

 銀座の物件を数多く扱っている不動産会社によると、銀座で新しくクラブを開業するには、家賃が1坪(約3.3平方メートル)当たり2万6000円~4万円、敷金に当たる保証金が家賃の10~12か月分、これに管理費や礼金などが加わり、家賃の14か月分程度の費用がかかる。例えば、15坪の店舗を坪3万円の家賃で契約する場合、不動産関連の費用だけで630万円。これに内装費が加わると1000万円を優に超える。高級感を演出するために、内装にこだわり、広めの30~50坪の物件を契約すれば、数千万円になるケースもあるという。

 銀座の事情通の中には「ドラマに登場する店カルネは、内装も凝っていて、店舗面積も大きいので、1億8000万円では賄えないのでは?」とみる向きもある。

 それほど地価の高い銀座で、ママたちはなぜクラブの開業を目指すのか。

 早稲田大学在籍中に女子大生ママになり、『銀座の流儀』(時事通信社)を執筆した「クラブ稲葉」オーナーママの白坂亜紀さん(51)は、「銀座はホステスにとって、メジャーリーグみたいな場所なのです」と指摘する。全国各地の盛り場に、新しい店が生まれるが、その最高峰に位置するのは今も銀座――という思いだ。「銀座に通って遊ぶには、お客さまにもそれなりの資金力が必要です。そこで男性をもてなすホステスも、常に女を磨き、自分を高めていなければ、生き残っていけません」と話す。まさに、<銀座の厳しさが、銀座の魅力>ということなのだろう。

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