経済

旅館の夕食をなくすと寂れた温泉街がにぎわう?

高崎経済大准教授 井門隆夫


「泊食分離」が必要な地域

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 旅館の1泊2食付きの文化は、江戸時代から続いている。

 当時、()(ちん)宿(やど)と呼ばれていた素泊まり宿よりも、食事を提供する宿のほうが、雇用を生み、単価も高いことから格上とされていた。その頃の宿は、相部屋が主体だったため、料金はホテルのような部屋単位ではなく、「一人あたり」となっていた。

 それ以後、現代に至るまで、「一人あたり・1泊2食制」が旅館の料金体系の標準とされ、宿泊すれば、夕飯に和風の会席料理というのが当たり前のようになった。

 「山あいの温泉宿なのに刺身ばかりだった」

 「品数が少なくて物足りなかった」

 このような期待していた食事に「がっかりした」という利用者の声もあるが、一方で、日本ならではの食文化として、旅館の食事を楽しみにするという外国人旅行者も少なくない。

 それでは、なぜ、国は泊食分離の導入を促進しようとしているのか。

 それは、おそらく旅館業全体について当てはまる話ではなく、泊食分離を導入することで起死回生を図ろうという地域があると考えられる。

 観光は、宿泊、飲食、物販などの多種多様な業種で成り立っている。泊食分離で新規顧客を掘り起こし、新たな雇用を生み出し、冷え切った地域経済の起爆剤となると期待されるのである。

旅館の稼働率は本当に低い?

 旅館の客室稼働率が低いことにも、あまり知られていない事情がある。

 「旅館」と聞いて、誰もが想像するだろう温泉地に立地する宿は「専業旅館」と呼ばれるタイプだ。その多くが、企業として正社員を雇用しており、客室稼働率も平均で約60%と低くはない(日本旅館協会調べ)。都市近郊の有名温泉地に至っては、客室稼働率はおそらく80%を超え、シティホテルと同等レベルに達していると見られる。

 旅館の客室稼働率が全国平均で約37%と低いのは、離島を含む全国各地にある民宿のような家族経営の宿も「旅館業」としてカウントされるためだ。

 旅館業の大多数を占めるこうした宿は、家族だけで経営しているため、365日の営業をしていないケースもある。その多くがサラリーマンや一次産業などとの兼業で、馴染み客や地元の宴会客を相手に商売している。

 中には、所有する不動産を事業用資産として相続するため、看板は掛けているものの、営業実態がないという旅館も少なくない。

 こうした宿も「旅館」として含められるため、平均稼働率はどうしても低くなってしまうのである。

 そのため、泊食分離を取り入れたからといって、旅館業全体の客室稼働率が改善するかというと、必ずしもそうとは言い切れない。

 では、どのような地域で泊食分離が有効なのだろうか。

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