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指定席より自由席?オフィスで進むフリーアドレス化

ジャーナリスト 猪瀬 聖

バブル期には導入失敗、しかし……

 考察を進める前に、まず、フリーアドレスの歴史を紹介しておきたい。

 日本企業がフリーアドレスを最初に導入したのは、1980年代後半のバブル期といわれている。理由は社員数が急増し、机が足りなくなったからだ。営業職の社員などは日中ほとんど会社にいないため、社員の数だけ机をそろえる必要はないとの判断もあった。その後、バブル崩壊でコスト削減が企業の至上命令となるなか、オフィススペースの節約という目的からフリーアドレスを試みる企業が相次いだ。

 しかし、試みはうまくいかなかった。社員が同じ席を選びがちになり、固定席とほとんど変わりがなくなったのだ。携帯電話のない時代、半ば「自分専用」と考えていた固定電話のある机から離れるのは、業務上、マイナス面が非常に大きかった。パソコンもデスクトップ型だから動かせない。インターネットも普及していない時代だった。

 2000年以降、状況は大きく変化する。インターネットや携帯電話が急速に普及し、パソコンはノートブック型が主流となって簡単に持ち運べるようになった。必要な文書もパソコン上で共有できるようになったため、紙の資料を自分の机に積み上げる必要もなくなった。

 ビジネスマンの働き方も、フレックスタイムや在宅勤務制度の導入などで徐々に柔軟化した。官民挙げての「働き方改革」の推進という流れもあり、企業は社員の生産性を向上させる手段の一つとして、フリーアドレスに注目したのだ。

生産性が上がる理由

  • 周囲に合わせてばかりいると生産性が…(写真はイメージ)
    周囲に合わせてばかりいると生産性が…(写真はイメージ)

 ちなみに、フリーアドレスは和製英語で、米国では「ノンテリトリアル・オフィス」などと呼ばれている。日本と違って生産性があまり問題視されていないせいか、生産性向上の手段としては注目されていないようだ。

 日本の企業で、フリーアドレスによって生産性が上がるといわれているのには、いくつかの仮説がある。例えば、〈1〉自由に席を選べるから、隣の同僚の無駄話に付き合う必要がない、〈2〉自分の席でないため、長居は居心地が悪いという心理が働いて業務効率化につながる、〈3〉フリーアドレスのオフィスには通常、電話や電話会議専用の個室があるため、電話中の大声で気が散る心配がない――などだ。

 NRIサービス・産業ソリューション事業本部の三浦滋・業務管理室長は「短期間での検証は困難だが」としたうえで、「今のオフィスに移って以来、社員の勤務時間は減っているが、こなす業務の量は変わっていない。そう考えると、生産性は上がったと言えるのではないか」と話す。

 フリーアドレスのコンサルティングサービスを手がける米国の不動産サービス会社CBREは2014年、東京都千代田区の自社オフィスにフリーアドレスを導入した。半年後に社員にアンケートをとったところ、76%が以前に比べ生産性が上がったと回答した。3年後の今年、再びアンケートをとると、生産性が上がったと答えた社員の比率は84%に上昇した。

新規事業を生む「きっかけ」に

 実は、生産性の向上以外にも、企業が競うようにしてフリーアドレスを導入する理由がある。社内コミュニケーションを活発にし、あわよくばそれがきっかけとなって、企業の持続的成長のカギを握る新規事業(イノベーション)につながることへの期待だ。

 イノベーションは、異質な価値観やアイデアがぶつかることで生まれやすいとされる。企業が社員のダイバーシティー(多様性)を推進するのも、そのためだ。異なる部署の社員が、席が隣り合ったことで知り合いになり、交流を深めることでイノベーションを生む。フリーアドレスも、そうした可能性を秘めている。

 ヤフーは昨年10月、東京都千代田区内の36階建ての大型オフィスビルに本社を移転したのを機に、フリーアドレスを導入した。オフィスは全部で20フロアに散らばっているが、原則として好きな階で仕事ができる。これまで一緒に仕事をする機会のなかった部署の社員たちと、交流する可能性が高まったというわけだ。

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