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指定席より自由席?オフィスで進むフリーアドレス化

ジャーナリスト 猪瀬 聖

成否のカギはコミュニケーション

  • フリーアドレス、成功のカギはコミュニケーションだ(写真はイメージ)
    フリーアドレス、成功のカギはコミュニケーションだ(写真はイメージ)

 フリーアドレスには、社員同士のコミュニケーションを促進するための細かい工夫もちりばめられている。

 例えば、フリーアドレスのオフィスの多くは、机の配置が一見ランダムで、固定席型のように整然とはしていない。だが、その多くは、人が何げなく歩く時の動線(パターン)が考慮されている。そうすることによって、社員同士が交流する機会を増やしているのだ。NRIの三浦室長も「ソックス型のような曲線型の机は、コミュニケーションをとりやすい」と話す。

 一方、フリーアドレスの導入で、むしろ社員同士が疎遠になってしまうリスクも指摘されている。同じ部署の人間が顔を合わせる時間が減り、ビジネスに時には必要なウェットな関係が十分に築けない恐れがあるためだ。そうしたコミュニケーション不足もまた、企業全体の生産性に響きかねない。

 CBREの担当者は、「フリーアドレスを導入した企業は、意識的に社員同士のコミュニケーションを促進する方策をとることが大切」と強調する。実際、フリーアドレス導入企業の中には、毎朝グループ会議を開いたり、定期的にグループランチをしたりして、フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを心掛けているところが少なくない。

 経済協力開発機構(OECD)が5月に発表した2015年の先進7カ国(G7)の労働生産性調査によると、労働生産性の指標となる一労働時間当たりのGDPで、日本は7カ国中最低の45.5ドルだった。最も高い米国(68.3ドル)の3分の2に過ぎず、OECD加盟国平均(51.1ドル)をも下回った。生産性の向上は、日本企業にとって喫緊の課題だ。

 そうしたなか、NRIやヤフーのほか、業績好調のカルビーや、日本航空、リクルート、日本マイクロソフトなど、フリーアドレスを導入する有名企業が急速に増えている。消費者庁が7月、徳島市に開いたオフィスにもフリーアドレスを導入するなど、今や役所もフリーアドレスの時代だ。今後、導入企業がさらに増えるのは間違いない。

 ただ、フリーアドレスが期待通りの成果を上げるには、同時に社員同士のコミュニケーション強化を図るなど、運用面での工夫が極めて重要と言える。それを怠り、「他社も導入しているから」などという日本企業の()しき横並びの習性で安易に導入すると、「仏作って魂入れず」という事態にもなりかねない。

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プロフィル
猪瀬 聖( いのせ・ひじり
  慶應義塾大学卒。米コロンビア大学大学院(ジャーナリズム・スクール)修士課程修了。元日本経済新聞ロサンゼルス支局長。主に日本人の働き方の再構築、米国の社会問題、食の安全やライフスタイルなどをテーマに取材を続けている。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。