政治

「早期解散」か「先送り」か…データで読む損得

読売新聞調査研究本部主任研究員 舟槻格致

「遅い解散=与党に不利」…データ的にも裏付け

  • 「郵政解散」について、記者会見する小泉首相=2005年8月8日撮影
    「郵政解散」について、記者会見する小泉首相=2005年8月8日撮影

 小選挙区比例代表並立制下で行われた最近の衆院選も見てみよう。

 2005年、小泉内閣が踏み切った「郵政解散」では、在職日数は639日と短く、その後行われた第44回衆院選では定数480のうち与党が3分の2を超える327議席を獲得し、議席率は、68.13%と圧勝した。前回の安倍内閣による14年の衆院選も在職日数706日と短い方で、議席率は68.42%を得ている。

 これに対し、自民党が民主党への政権交代を許した09年の衆院選(麻生内閣)までは在職期間が1410日とほぼ任期満了に近く、与党は140議席、議席率にして29.17%と惨敗した。民主党が国民新党とともに与党として初めて臨んだ12年の衆院選(野田内閣)も在職期間は1175日と長めで、与党が獲得したのはわずか58議席、議席率は12.08%という壊滅状態で、民主党は政権を失った。

  • 衆院解散後の記者会見で唇をかむ野田首相=2012年11月16日撮影
    衆院解散後の記者会見で唇をかむ野田首相=2012年11月16日撮影

 ちなみに、衆院議員の在職期間と、与党の議席率について、統計学でよく用いられる「相関係数」という指標を計算してみると、1958年以降であれば-0.43、96年以降に限ると-0.61という結果が出た。これは、それぞれ「負(逆)の相関関係」が認められ、しかも今の選挙制度になってから、その傾向が強まっている――ということを意味している。

 つまり、「遅い衆院解散=与党に不利な衆院選」という関係は、データ的にも裏付けられていると言える(ただし、選挙のサンプル数は多くないので、将来にわたって同じ傾向が絶対続くとは断定できない)。

 少し注意が必要なのは、「相関関係=因果関係」とは必ずしも言えないということだ。つまり、解散総選挙について、「遅くまで引っ張ったから、結果として負けた」場合もあれば、「選挙に負けそうだから、遅くまで引っ張った」というようなケースもあるだろう。

 もちろん、政策実現に向けた政権側の思惑も解散時期を左右する重要な要因だ。安倍政権が目標とする憲法改正には、衆参両院それぞれの総議員の「3分の2以上の賛成」により発議した上で国民投票にかける必要があり、今は改憲勢力が衆参それぞれで3分の2を占めている。安倍首相が解散時期を遅らせる理由として言われているのが、この状態を来年まで維持しておくことだ。ならば、「遅くまで引っ張った」のは、「負けそうだから」ではなく、前向きな目的のためだということになり、「遅い選挙なら負けやすい」というジンクスが破られる可能性だってあるかもしれない。

 ただ、内閣支持率の今後の動向次第では、憲法改正という目標に向けて遅らせたはずの解散が、「『今やったら勝てない』という理由による先送り」にいつの間にか変わっていかないかどうかも、注意深く見ていく必要がありそうだ。来年9月に行われる自民党総裁選挙で、安倍首相が3選できるかにも影響しそうだ。

 安倍首相に近い自民党のベテランが語る。

 「北朝鮮のミサイル問題など、今の厳しい国際情勢を考えれば長期安定政権が望ましく、安倍さんを代えるべきではない。ただ、内閣支持率がさらに上向かないままで安倍さんを続投させることになると、そのあとの衆院選では、野党から集中砲火を浴びて負けるだろう。ならば、早めに解散したほうが良いのではないか。解散のタイミングは、安倍さんの“瞬間のひらめき”で決まるはずだ」

 また、民進党の前原新体制がスタートした直後に、既婚男性との交際疑惑で山尾志桜里・元政調会長が離党し、党内に動揺が走る中、民進党や野党の選挙態勢が固まるのを待たずに解散を打てば勝てるのではないか、との主戦論も与党内に根強い。今後、野党再編が加速する可能性にも注意する必要がある。このため、10月22日の青森、新潟、愛媛の衆院トリプル補欠選挙で与党が3勝すれば、年内から年明けの解散総選挙の目が出てくるとの見方も出始めている。

 内閣の支持率回復と野党の出方と、憲法と――。これからしばらく、首相の頭を悩ませることになりそうだ。

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プロフィル
舟槻 格致(ふなつき・かくち)
 読売新聞調査研究本部主任研究員。専門分野は憲法と政治。憲法を中心とした政治の動きを、政治部で担当。首相官邸のほか与野党、国会、外務省、法務省などを取材し、憲法、衆院選、統括担当の次長を経て現職。著書『政治はどう動くか』(書肆侃侃房)、共著『基礎からわかる 憲法改正論争』(中公新書ラクレ)など。