経済

財政難、高齢化…インフラ整備をどう進めるべきか

日本プロジェクト産業協議会会長 宗岡正二
 東京オリンピック・パラリンピックの開催まで残り3年を切った。訪日外国人の増加などで、あらためて日本のインフラの課題が注目されている。少子高齢化が進む中、道路・空港・港湾など、広範囲におよぶインフラ整備をどう進めるべきなのか。積極的な提言を行っている日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の宗岡正二会長(新日鉄住金会長)に聞いた。(聞き手 読売新聞メディア局編集部次長 中村宏之)

現状は「残念な状況」

  • 宗岡正二・日本プロジェクト産業協議会会長(新日鉄住金会長)
    宗岡正二・日本プロジェクト産業協議会会長(新日鉄住金会長)

――日本全国のインフラ整備の現状について、どんな認識を持っていますか?

 現状は大変残念な状況に追いやられているのではないかと認識しています。ある国のインフラの水準そのものが、その国力や経済力を規定する――というのが世界の常識だと思いますが、それが日本の政治家やメディア、国民の皆さんに十分認識されていないのではないかと憂慮しています。

 端的に申し上げれば、インフラ整備は政治家の地元の選挙区への利益誘導的な景気対策という見方や評価が刷り込まれ、「公共投資はすべて悪」というイメージになっているのではないか。日本の国全体にとって必要なインフラは何か、というマクロ的な視点が欠けているように感じています。結果として、限られた国家の財政の中で、インフラ整備のための投資を減らし、社会保障や子育て支援に財源を回せば良い、という風潮になっているように思います。

――具体的には、どうとらえればいいと思いますか?

  • 大規模改修が予定される首都高速羽田線
    大規模改修が予定される首都高速羽田線

 インフラは産業基盤であり、なおかつ生活基盤である、という視点で見るべきです。産業基盤であるインフラが整備されているからこそ、国の経済や企業経営は発展するのです。そして生活基盤である学校、病院、公園などのインフラの水準向上そのものが国民の生活水準を高めていくのではないでしょうか。

 欧米先進国の指導者はインフラの重要性を明言しています。オバマ前大統領は、米国が先進国であり続けられるのは世界に冠たる交通インフラがあるからだと指摘しましたし、土地代を除いたインフラ整備のための投資は、過去20年間で、イギリスでは約3倍、アメリカでは約2倍、フランスでは約1.7倍に増加しています。それに比べ、日本は半減以下の水準となってしまいました。インフラ整備の効果を、短期的なフロー(お金が循環し、経済を活性化させること)の改善効果に矮小(わいしょう)化するのではなく、人や物の往来を効率化し、移動時間と費用を削減することで生産性を向上させるといった長期的なストックの蓄積という観点から評価することが重要だと思います。

 例えば、東京近郊の環状道路を見ても、北京やソウルの環状道路網と比べ、相当程度見劣りが致しますし、接続が未整備な部分(ミッシングリンク)の存在が道路ネットワークの効率的な活用を妨げています。地方でも、ミッシングリンクはまだ多いですし、危険な暫定2車線の対面通行の自動車専用道路も多く見られます。建設から50年以上()った首都高速道路をはじめ、老朽化した危険な道路や橋梁(きょうりょう)などをどう維持・管理していくのかということも全国的な喫緊の課題でしょう。また、わが国は四方を海に開いている海洋国家であり、港湾は日本の生命線、そして国力の源泉とも言えるインフラですが、インバウンド対応の世界最大級の客船や、大型化が進む世界の海運動向に対応した超大型のバルク船(ばら積み船)やコンテナ船が寄港できる港はまだまだ少なく、日本の港湾は周辺のアジア諸国にも残念ながら見劣りするのが実情です。首都圏の空港のあり方についても、成田と羽田の役割をしっかり議論し、方向性を明確にして必要な整備を急ぐべきでしょう。

地方活性化とインフラ

――地方発展のためのインフラ整備についてはどう考えますか?

 JAPICでは、(1)地方の活性化、(2)国民の安全・安心、そして(3)国際競争力の向上を3本柱とするインフラ整備が重要だと考えています。

 地方の活性化については、個性ある地域の活性化と雇用の創出のために、その土地ならではの魅力をどう高めていくかが問われます。観光を通じた地域の活性化という観点から見れば、豊かな自然に触れられる国立・国定公園、特長のある農水産品、美しい景観など、持てる資産や魅力をどうアピールしていくかが重要です。生活基盤の整備という観点からは、地域の人口が減少し高齢化する現実に対応するために、コミュニティーをコンパクト化しながら住みやすいようにリセットすることも課題になります。LRT(ライトレールトランジット、次世代型路面電車システム)や高齢者がカートで安心して動けるようなインフラ整備もその一例でしょう。

 次に、国民の安全・安心については、日本の国土の特徴を考えてみると、地震・火山大国であること、急峻(きゅうしゅん)な地形で河川が短く、その高低差が大きいこと、台風の通り道であることなどが挙げられます。将来世代の安全・安心の備えにも配慮した治山治水や、都市部においては木造住宅の密集地域の解消などに取り組んでいく必要があります。

 国際競争力の向上については、先に述べましたように、物流の効率化など、生産性の向上に資するインフラ整備として道路のミッシングリンクをどう解消するか、あるいはインバウンドを吸収する客船や大型バルク船・コンテナ船の寄港にどう対応するかなど、産業基盤の整備としてやるべきことがたくさんあると考えています。

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2017年10月2日09:56 Copyright © The Yomiuri Shimbun