文化

藤井四段も活用…将棋ソフトが変える現代将棋

将棋ライター 小島渉
 藤井聡太四段の活躍で注目が集まる将棋界。天才たちがしのぎを削るこの世界で今、大きな変革が起きている。人工知能(AI)の一種である「将棋ソフト」が好んで指す戦法が、プロの間で大流行しているのだ。将棋ソフトには人間のような先入観がないため、 ( すた ) れていた指し方に光が当たるようなことも起きている。将棋ソフトが変える将棋界の現状について、将棋連盟でネット中継などを担当する将棋ライター、小島渉さんに寄稿してもらった。

羽生棋聖も指した流行戦法

  • 竜王戦第2局で初手を指す渡辺明竜王(右)と挑戦者の羽生善治棋聖(10月28日、岩手県大船渡市で)
    竜王戦第2局で初手を指す渡辺明竜王(右)と挑戦者の羽生善治棋聖(10月28日、岩手県大船渡市で)

 「やはりこれで来たか」。勝負を見守る関係者はみんなそう思ったに違いない。

 10月28、29日に行われた第30期竜王戦七番勝負第2局、後手番となった挑戦者の羽生善治棋聖が採用した玉の囲いは「雁木(がんぎ)」とよばれるものだった。

 最近、雁木を採用する棋士が爆発的に増えている。将棋界の最高位を決める竜王戦で雁木が登場したことは、この戦法の優秀性がトップ棋士にも認められたことを意味する。勝負は、巧みに攻めをつないだ羽生棋聖が渡辺明竜王に快勝。矢倉囲いで敗れた渡辺竜王は、本人のブログで「矢倉は古い戦法なんでしょうか」と振り返った。雁木ブームは当分、収まりそうにない。

 今年、ある若手棋士の言葉が波紋を広げた。

 インターネットサイト「マイナビ将棋情報局」に掲載された記事の中で増田康宏四段が語った「矢倉は終わりました」という言葉である。増田康四段は新人王戦で連覇を果たした19歳の俊英だ。

 矢倉も玉の囲いの名称である。数多(あまた)ある将棋の戦型の中でも主流中の主流の指し方で、今年、現役を引退した加藤一二三九段が十八番にしていた。かつてはトップ棋士たちがこぞって矢倉を指し、「矢倉を制するものは棋界を制す」という言葉まであった。

  • 図1
    図1

 ところが、矢倉の将棋がここ数年で激減している。将棋ソフト発の新手・戦法が、矢倉を苦戦に追い込んでいるのだ。増田康四段の言葉は、時代の流れを感じさせる。

 その増田康四段が得意にしているのが雁木である。(図1)をご覧いただきたい。先手の玉は8八にいて、それを守る金銀の形が矢倉である。対する後手の玉は4一にいて、玉形が雁木である(厳密にいえば、6三の銀が5三にいる形を雁木と呼び、図の場合は「ツノ銀雁木」と区別することも多いが、本稿では雁木で統一する)。

 雁木は、長らくプロ間の評価が低く、指されることが少なかった。矢倉に比べて守りが薄く、玉が“流れ弾”に当たりやすいからだ。だが、将棋ソフトはよく雁木を指しこなす。それによって、雁木に対する評価も変わってきた。守りが薄くても、バランスのよい陣形は攻守に柔軟性があることがプロ棋士の間でも広く認識されるようになったのだ。

 増田康四段は雁木の優秀さにいち早く気付いた棋士の一人である。今のところ、相手に雁木に組まれた時、矢倉がどういう方針で対抗すればいいのか、よくわかっていない。それで、矢倉が廃れ、雁木が流行しているのである。

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