文化

47歳、羽生「永世七冠」の進化し続ける強さ

将棋ライター 小島渉
 将棋界で前人未到の「永世七冠」を達成した羽生善治竜王(47)。19歳で竜王の初タイトルを獲得して以来、ずっと棋界の第一人者として走り続けている。若い世代の棋士たちがめきめきと力をつける中で、トップであり続けられるのはなぜか。羽生の強さの秘密を将棋ライターの小島渉さんに解き明かしてもらった。

渡辺も「完敗」認めた強さ

  • 渡辺竜王(右)が「完敗」と認めるほど、羽生棋聖の強さが光った今期の竜王戦
    渡辺竜王(右)が「完敗」と認めるほど、羽生棋聖の強さが光った今期の竜王戦

 「羽生さんとの今までの番勝負の中でも今回が最も完敗」。将棋界の最高棋戦である竜王戦で、挑戦者の羽生善治棋聖に敗れ、竜王のタイトルを失った渡辺明棋王(33)は七番勝負終了後、ブログで完敗を認めた。

 それほど今回の羽生の強さは際立っていた。第2局は将棋ソフトが好んで指す玉の囲いで、プロの間でも大流行している「雁木(がんぎ)」を採用して勝利を収め、第4局は解説陣が思いもつかない絶妙な手順で渡辺玉を仕留めた。3勝1敗となった後の第5局は、渡辺陣の不備を突いて1日目から優位を築き、2日目も緩みない手順でそのまま押し切った。

 竜王戦開幕前の羽生は、苦しい戦いを続けていた。今年度初めには王位、王座、棋聖の三冠を保持していたが、7月に斎藤慎太郎七段(24)の棋聖挑戦を退けた後は、8月には菅井竜也七段(25)に王位を、10月には中村太地六段(29)に王座を立て続けに奪取され、13年ぶりに1冠に後退した。9月に竜王戦で7年ぶりに挑戦権を獲得したものの、不調説がささやかれていた。

 竜王を保持していた渡辺は30代のエースで、竜王通算11期と竜王戦では他を寄せ付けない強さを誇る。今期七番勝負の前に羽生とはタイトル戦で8回顔を合わせ、5勝3敗と勝ち越していた。竜王戦のような2日制の番勝負は3戦全勝だ。

 2008年の第21期竜王戦における激闘は、今も語り草となっている。渡辺にとっては竜王5連覇、羽生にとっては通算7期目の竜王獲得がかかるシリーズで、初代永世竜王の資格をかけた戦いとなった。開幕から羽生が3連勝したものの、渡辺が4連勝で逆転防衛。将棋界初の3連敗4連勝で、渡辺が初代永世竜王の資格を得た。

 そんな不安材料をよそに、ふたを開けてみると今シリーズの羽生は積極的な指し手が目立った。終わってみれば4勝1敗で圧勝。通算7期目の竜王獲得で永世竜王の称号の資格を得るとともに、永世七冠を達成した。ただの7冠ではない。「永世七冠」である。

 将棋のタイトルは竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖の八つあり、このうち永世称号は今年度に誕生した「叡王」を除く七つにある。永世称号は、タイトルを一定数獲得すると引退後に名乗る資格が与えられるもので、各タイトルによって条件は異なる。永世竜王の資格は連続5期か通算7期。羽生は永世称号を六つ獲得していて、残すは永世竜王のみになっていた。

 タイトルを1期獲得するだけでも大変だが、防衛や奪還を積み重ねて永世の称号を得るのはさらに難しい。永世称号を一つ得るだけでも偉業なのに、それを七つもそろえるのである。気の遠くなるような道のりだ。

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2017年12月12日13:40 Copyright © The Yomiuri Shimbun