社会

2020年の日本、100年前にここまで見通した男

読売新聞メディア局編集部 河合良昭

人口規模、平均寿命で近似値を予想

  • 1920年4月の上野公園の様子(読売新聞の紙面から)
    1920年4月の上野公園の様子(読売新聞の紙面から)

 他にも「服は男女とも9割が洋服に」「都市ではアパート式建物が激増する」など、現代社会を彷彿(ほうふつ)とさせる予想をした人たちはいた。しかし、何よりも筆者の目を(くぎ)付けにしたのは、“敷津林傑”という人の予想だった。

 敷津は、約490文字の短文の中に、約10項目にわたって予想を羅列していた。日本の領土がフィリピンや現在のロシアの一部まで広がるなど、現実とは大きく違っている部分もあるが、特筆すべきは、具体的な数字を挙げて将来像を描こうとした点だ。しかも、そのいくつかは、ほぼ100年後に当たる現代の数字に近いのだ。

 例えば、国民の平均寿命。厚生労働省によると、1921~25年にかけて日本人の平均寿命について調査した記録では、男性が42.06歳、女性が43.20歳となっていた。こうした時代に敷津は、衛生状態がよくなることなどで100年後の日本人は「80~90歳まで生きることができるようになる」と予想した。

 2017年7月に同省が発表した16年の日本人の平均寿命は、男性が80.98歳、女性が87.14歳で、ほぼ的中している。

 人口についても、おおよその規模を見通していた。

 1920年の日本の人口は、約5600万人。敷津は100年後の人口を「1億8000万人」と予想した。総務省によれば、17年12月現在(概算値)で1億2670万人。的中はしそうにないが、「78億人」などの数字に比べれば、大まかな数字をつかんでいたと言えるだろう。

  • 雑誌挿絵で書かれた東京都千代田区の神田川にかかる万世橋の予想図(左)。空には「巡査用飛行機」が飛んでいる/右は現在の万世橋付近
    雑誌挿絵で書かれた東京都千代田区の神田川にかかる万世橋の予想図(左)。空には「巡査用飛行機」が飛んでいる/右は現在の万世橋付近

 敷津の予想は、航空機1機当たりの旅客数にまで及んでいた。敷津はそれを「200人乗りから600人乗りになる」と見込んだ。

 エアバス・ジャパン(東京都港区)によると、現在、国内の航空会社で最も使われている同社の機体は「A320」で乗客は100~200人。最も収容人数の多い「A380」は500人前後で運用されているという(全席エコノミーなら853人分の座席設置が可能)。

 驚くべきは、数の的確さだけではない。世界初の旅客機が飛んだのは1919年。第一次世界大戦(14~18年)の直後で、航空機は主に武力として注目され、「乗客を運ぶ」という用途自体がまだ定着していなかったのだ。

 「百年後の日本」にも航空機に関する予想は多く寄せられたが、そのほとんどは「警察が使う」「郵便を運ぶようになる」などの内容だった。敷津の予想も「ロンドンまで2週間で往復」などと飛行時間は的外れであったが、旅客機が普及するという考えそのものが、多くの人たちの頭には浮かばなかったようなのだ。

  • エアバス社の「A380」の機体(2014年撮影)
    エアバス社の「A380」の機体(2014年撮影)

  敷津はほかにも、興味深い予想を示している。

 「(燃料としての)石炭と(まき)は不用となり、太陽の熱を利用する」――。こちらはまだ道半ばだが、再利用可能エネルギーへの転換が進められている。資源エネルギー庁によると、1次エネルギー供給のうち、再生可能エネルギー(水力を除く)は全体の4.3%(2016年度速報値)で、20年にはとても間に合いそうもないが、いずれ現実となる日が来る可能性は高い。

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2018年1月9日15:00 Copyright © The Yomiuri Shimbun