国際

4期目目前のプーチン氏、内と外で直面する難題

公益財団法人「未来工学研究所」特別研究員 小泉悠

紹介された兵器、実現性にはバラツキ

  • 大陸間弾道ミサイル「サルマート」の発射実験の映像。3月1日、ロシア国営テレビによって提供されたもので、撮影場所は不明(AP)
    大陸間弾道ミサイル「サルマート」の発射実験の映像。3月1日、ロシア国営テレビによって提供されたもので、撮影場所は不明(AP)

 ――教書演説で紹介された新型の兵器には、実現できそうなものとそうでないものが交じっているようだが。

 「最初に出てきた大陸間弾道ミサイル(ICBM)『サルマート』は、ロシアがずっと開発を続けてきたもので、まもなく実戦配備ができると思う。ロシアの核抑止力の中心にあったのは核弾頭を10発も搭載できる重ICBMだが、老朽化している上に(クリミア併合で関係が悪化した)ウクライナ製なので再生産ができない。サルマートはこれに代わり、多数の核弾頭を搭載する新型重ICBMとなろう。

 サルマートに積むのは在来型の核弾頭だけではない。例えば、極超音速弾頭。普通のICBMはボールを投げた時と同じような軌道を飛んでいくが、極超音速弾頭は大気圏の縁に沿ってコースを変えながら飛んでいくので、撃墜するのは難しい。ロシアは『アバンガルド(前衛)』という極超音速弾頭をサルマートに積む方針だ。

  • 極超音速弾頭「アバンガルド」のコンピューター・シミュレーション画像。3月1日、ロシア国営テレビによって提供された(AP)
    極超音速弾頭「アバンガルド」のコンピューター・シミュレーション画像。3月1日、ロシア国営テレビによって提供された(AP)

 このほか、部分軌道爆撃システム(FOBS)をサルマートに載せようとしているのではないかと思う。これは、核弾頭付き人工衛星みたいなものをミサイルに載せ、地球を回る軌道に乗せる。ただし、1周させないで3分の2周ぐらいのところで落とす。こうすれば、最短距離の北極回りだけでなく、迎撃体制の手薄な南極回りで米国を攻撃できる。

 したがって、在来型の核弾頭を多数積む、極超音速弾頭を積む、FOBSを積むという都合3バージョンのサルマートが考えられるわけだ。これら“サルマート・ファミリー”と戦闘機に積むキンジャールというミサイルは実用化できるだろう。

 あやしいのは原子力巡航ミサイルだ。原子力で飛行機を飛ばすという話は、1950年代から米国でもソ連でもあった。原理的にはわかるし、米ソは実証実験も一部行ったが、あまりにも高コストである上に、これまで知られている原理の原子力ジェットだと放射能をまき散らしてしまい、現実的ではない。

 米国は、ロシアが原子力ジェットのテストをしたが失敗したと言っている。ということは、原子力ジェットのエンジンを作動させていることになる。だが、従来知られている原理ならば汚染物質を出すはずなので、あっという間に検知されるはずだ。汚染しないで飛ばせる原子力ジェットをロシアが開発したのならすごいが、そこはナゾに包まれている。

 もう一つ、原子力魚雷も、原理はわかる。ロシアは実際、超小型の原子力潜水艦を作って配備しているので、技術的な基礎はある。ところが、それで何をしたいかがよくわからない。敵国の空母を攻撃したり、沿岸まで潜航してそこで核爆発を起こしたりする映像が出ていたが、実際の作戦でどう活用するかが見えず、兵器としては使い勝手がよくない気がする」

実は苦しいプーチン大統領

 ――プーチン大統領はロシア軍の改革を進めているようだが、これで何が変わったのか。

 「プーチン氏は何回か軍改革に意欲を示していたが、本格的な改革を始めたのは2008年ぐらいからだ。『第3次世界大戦』をやるような古い考えを一掃して新しい軍にした。新しいロシア軍になったからこそ、14年にはウクライナ紛争、15年にはシリア内戦に介入できた。

 ただ、ロシアとしては二つの戦争を同時にやるのは相当な負担であるはずだ。お金もかかるし、西側との関係が緊張するなど政治的にも大きな負担を抱え込んでいる。どこかで撤退したいはずだが、白旗を揚げて出ていくわけにはいかない。ウクライナではNATOやEUの拡大は認めない、シリアではアサド政権の残留とロシアの軍事プレゼンス維持ぐらいのことは認めさせないと、ロシアのメンツと国益を守れない。

 プーチン氏は、西側の制裁が重荷になったとしても、それは大国ロシアが負わなければならないコストだと考えるだろう。ところが、国防費を巡っては財務省と対立関係にある。ピークの16年には国防費はGDPの4.7%に達した。ドイツが2%出すのに苦しんでいることを考えると、ロシアで財務当局から悲鳴が上がるのは当たり前だ。17年には国防費を大幅に削った。

 軍や軍需産業の関係者からは18年の国防予算には『もっと色を付けてくれ』と要求されたが、プーチン氏は選挙の年であるにもかかわらず、それを断固拒否した。対外的にはこわもてで通るプーチン氏だが、国内的には軍と財務当局の板ばさみになり、それでも抑止力は下げられないという苦しい立場にある」

2018年3月13日05:20 Copyright © The Yomiuri Shimbun