国際

「孤独」に社会で向き合う英国、その背景とは

在英ジャーナリスト 小林恭子

社会福祉削減に厳しい批判も

  • 社会福祉のサービス削減は、いたるところに影響を及ぼしている(写真はイメージです)
    社会福祉のサービス削減は、いたるところに影響を及ぼしている(写真はイメージです)

 孤独担当大臣に就任したのは、デジタル・文化・メディア・スポーツ省(日本の文部科学省にあたる)の政務次官トレイシー・クラウチ氏だ。

 担当大臣はできたが「省」はできておらず、全省庁が協力して仕事を進める。

 その職務は年内に孤独解消のために全省庁で取り組むための戦略を策定することで、現在、これに向けた調査や話し合いが続いているところだ。秋までにはその骨格が公表される見通しだ。

 担当相は、国家統計局と協力しながら孤独を測る指標を統一化し、どの支援がどれほど役に立ったのかを調査する。また、専用基金によって慈善組織などに財政支援する。

 こうした中、オックスフォード大学教授で公共政策が専門のナオミ・アイゼンシュタット氏は、メイ政権の孤独問題対策に厳しい目を向けている。

 孤独問題が悪化しているのは、2010年以降の保守党政権下で社会福祉のサービスが削減されたからではないか、との指摘(米タイム誌、4月25日号)だ。母子家庭への支援の削減、児童や若者が集う「ユースセンター」の閉鎖が「大きな影響を与えている」と述べた上で、生活基盤の不十分さという問題を解決せずに「孤独問題を解決できると思っているのだろうか」と、批判している。

 厳しい財政状況の下で「無駄」を見直した結果、孤独に悩む人のよりどころを奪ってしまった面があることは否定できない。

対処法は

  • 「シェアード・ライブズ」のウェブサイト
    「シェアード・ライブズ」のウェブサイト

 孤独担当大臣の取り組みが動き出すのは少々先になりそうだ。

 では、今、目の前にある孤独を解消するにはどうしたらいいのだろうか。冒頭で紹介した「孤独を終わらせるキャンペーン」は、孤独を感じる人に向けた対処法を掲載しているが、最初のステップは自分が孤独であることを認識することから始まるという。

 その後で、「自分が何を望んでいるのかを考えてみる」(例えば、友人あるいは家族に来てもらいたいのか)、「自分の面倒を見る」(体に良い食べ物を食べる、簡単な運動をする、何かの活動に従事する)、「地域社会や近隣で何が起きているかを知る」、「地域の福祉サービスの担当者に相談してみる」、「持っているスキルを他の人と共有する」など、具体的な行動のヒントを列挙している。

 地域社会が主導する取り組みとしては、年金生活者と住む場所を失った若者たちが共同生活をする「シェアード・ライブズ」、退職者や失業した男性たちが木工細工や電気製品の修理などの作業を共にする「メンズ・シェド」、難民たちが近所に住む住民らと交流をする「ホスト・ネーション」などのサービスが知られている。こうしたサービスを通じて、孤独を感じている人を社会に取り込み、居場所を提供しようとしている。

 BBCのニュースサイト(1月17日付)によると、孤独な高齢者に対しては、「話しかける」「代わりに買い物に行く、郵便物を出すなどの実用的な支援を行う」「慈善組織のボランティアになる」「総菜を分け合う」などを奨励している。

 また、孤独な若年層に対しては、「こちらから会う機会を作る」「孤独について話せる場所がないかどうかを地元で探すのを手伝う」「聞き役に回り、先入観を持たない。忙しそうに見える人が孤独感を味わっていることもあることを意識して接する」といった対応を勧めている。

 一つ一つは小さなことだが、相手に合わせたきめ細かい英国の実践例は、日本でもヒントになるのではないだろうか。

プロフィル
小林 恭子(こばやし・ぎんこ)
 秋田県生まれ。成城大学卒業後、外資系金融機関勤務、英字紙「デイリー・ヨミウリ」(現The Japan News)の記者を経て、2002年、渡英。フリーランスのジャーナリストとして、政治やメディアについての記事を各種媒体に寄稿している。著書に『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中公選書)、『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)などがある。

  • 『英国公文書の世界史』(中公新書ラクレ)
    『英国公文書の世界史』(中公新書ラクレ)
2018年5月16日05:20 Copyright © The Yomiuri Shimbun