文化

元祖・働き方改革、天智天皇が使った切り札は?

読売新聞編集委員、BS日テレ「深層NEWS」キャスター 丸山淳一

曲解された「働かざる者、食うべからず」

  • 池田勇人・元首相。所得倍増論で支持を集める一方、「貧乏人は…」などの発言で物議をかもした
    池田勇人・元首相。所得倍増論で支持を集める一方、「貧乏人は…」などの発言で物議をかもした

 農村から始まった「勤労は美徳」の精神は、明治以降は商工業にも拡大し、戦後の高度経済成長を支えた。池田勇人(1899~1965)首相が「国民所得倍増計画」をぶちあげた1960年代には、ロシア革命を主導したウラジーミル・レーニン(1870~1924)のスローガンが、勤勉の合言葉としてよく使われた。

 「働かざる者、食うべからず」

 もともとは新約聖書にある言葉で、正確な和訳は「働こうとしない者は、食べることもしてはいけない」。怠惰を戒めてはいるが、働こうにも働けない失業者や社会的弱者まで食べるなとは言っていない。レーニンが資産家を糾弾するスローガンに借用した際、厳しいニュアンスに改め、旧ソ連兵がシベリア抑留日本兵を強制労働させる際にこのスローガンを使った。シベリアから帰還した日本兵が厳しい口調のまま日本に持ち帰り、高度成長期の合言葉になったという説がある。

 「貧乏人は麦を食え」の発言が問題となった池田だが、「働かざる者…」とは発言していない。

 「皆さん、働きましょう。働くということは(はた)を楽にするという意味だそうです」

 池田はテレビに出演し、隣人や近所の人を楽にするため働こう、と呼びかけている。レーニンより、むしろ聖書の言葉に近い。

 「働く=傍楽」は、「朝飯前に仕事し、午後は傍を楽にするボランティアを買って出た」という江戸時代の町人の言葉だという説があるが、根拠のない俗説とみられる。江戸の町人の厳しい暮らしを考えると、むしろ「働かざる者、食うべからず」のほうが実態に近かったのではないか。

時間を惜しむ?持て余す?…6月に思うこと

 今は国民の祝日が増えてあまり聞かなくなったが、少し前まで12か月で6月だけ祝日がないことを理由に、時の記念日を祝日にしようという声があった。過労死や過労自殺の問題を扱う弁護士らが、過労死や過労自殺が多いとされる6月に休日を設けるべき、と行政に求めたこともある。

 だが、時の記念日は1920年(大正9年)に文部省の外郭団体だった生活改善同盟が「時間を守り、合理的な生活へと改善を図る」ために定めた。この日にあわせて「時計の針のように、日々時を惜しんで努力すべき」という歌詞の『金剛石 水の器』を歌う学校もあったから、休日としてふさわしいかどうか。

 ちなみに藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』では、6月に祝日がないことを悲しんだのび太が、ドラえもんの秘密道具を使って6月2日を「ぐうたら感謝の日」にしてしまう話がある。暮らしを豊かにしたのか縛ったのか、時の記念日のある6月は、勤労感謝の日がある11月よりも、ひとりひとりが働き方を考えるのに向いているかも知れない。

プロフィル
丸山 淳一( まるやま・じゅんいち
 読売新聞東京本社経済部、論説委員、経済部長などを経て、熊本県民テレビ報道局長から読売新聞編集委員・BS日テレ「深層NEWS」キャスターに。経済部では金融、通商、自動車業界などを担当。東日本大震災と熊本地震で災害報道の最前線も経験した。1962年5月生まれ。小学5年生で大河ドラマ「国盗り物語」で高橋英樹さん演じる織田信長を見て大好きになり、城や寺社、古戦場巡りや歴史書を読みあさり続けている。

2018年6月9日05:20 Copyright © The Yomiuri Shimbun