小5でも解ける 開成入試算数の衝撃…森上展安

少なかった繰り上げ合格…静かな入試

 今年の難関中学の入試は昨年と比べて、受験者数も合格者数も大きな変化はなく、表面的には静かな入試となりました。

 それは、繰り上げ合格者の発表に一番反映されています。多くの難関校では2月11日、合格者の登校日があります。そこで、合格者の中から入学する人数が確定します。確定数の結果を受けて、繰り上げ合格をその日に決めるのです。昨年も、繰り上げ合格者を出す学校が例年より少なかったのですが、今年はさらに少なくなっています。

 当然のことですが、各校で第1志望者の受験生の比率が高まっていることがあると思います。ですが、それだけではなく、男子の桐朋が2月1日のみの「1回入試」を変更して「2回入試」に踏み切ったこと、女子の鴎友が従来の「3回入試」から「2回入試」に回数を絞ったこと、この2つの変化が大きく影響した、と考えています。桐朋にとっては御三家などとの併願が可能になって、高い学力を持つ受験生に対する求心力を高めることができたのではないでしょうか。また、鴎友は回数を絞ることで、同校への入学を強く希望する受験生を、今までよりも集めることができたと思います。

開成と武蔵の高い倍率…他の進学校にはない積極性

 こうして、多くの難関校が2倍強の落ち着いた入試となった一方で、開成と武蔵、あるいは渋谷教育学園渋谷中学高等学校(渋渋)は3倍、4倍の高い倍率になりました。男女別学よりも男女共学が主流となりつつある現在、共学トップ校の「渋渋」の倍率が高いことは当然の流れであるといえますが、男子御三家の開成と武蔵については、学校説明会でのトーンが他と比べて一味違っていたことも影響しているのでは、と思いました。

 いずれの学校も、教育や世間を取り巻く「現代」という時代状況に対してかなり明確な発言をしていて、他の進学校にはない積極性があったと、説明会に出席した人が感想を話していたのです。

 そこで、私が今年の入試で一番注目していたのは、何といっても開成の算数の問題でした。私は昨年から、2月1日の夕方に新6年生の親子に集まってもらって、その日に出題されたばかりの難関校の算数の入試問題を集めて教室のスクリーンに映し出し、中学受験指導のベテランの指導者の先生方にコメントをしてもらうという講習会を行っています。

 実は、そのことを昨年もこの欄で書きました(「開成中の入試算数、どう取り組む?」)。そこでは、解答用紙にある余白の大きさについて触れました。つまり「答えだけでなく、途中の式も大切。そのことを余白がアピールしている」ということを、参加者たちで確認したのです。

5年生までの知識を使って解ける…開成の算数の問題文が長文に

 今年の開成の算数の問題は、講習会の最後の方で扱いましたが、先生方が一瞬どよめきました。一番のポイントは「どの問題も5年生までの知識を使って解ける」ということでした。旅人算に図形を絡めた問題、場合の数、図形などでした。

 開成の受験生はかなり算数が得意です。いわゆる「よく出る難問」には習熟しています。今までは、もちろん選抜試験ですから、5年生でも解けるような易しい問題は出ませんでした。しかし、ベテランの指導者の先生に言わせれば、以前に取り組んだことさえあれば(解き方を学習しているので)解くことができる難問が出る傾向が強かったそうです。

 それが今年は違ったのです。そのかわり、一つ一つの知識は5年生で習ったものでしたが、問題文が今までよりも長文になっていました。文章の意味をよく読み取って、5年生で習った知識を使って(応用して)解く問題になっていた、ということでした。指導する先生方は「いくら問題文からの読み取りが必要であっても、必要な知識がやさしいので、やはり解けてしまう。今年は高得点の勝負になるのではないか」と話していました。

 後日、得点が学校のHPで発表されていましたが、意外なことに平均点は65%くらいでした。合格者の平均点数と全体の平均点数では10点以上の差があり、昨年より差が大きくなっていました。

5年前の麻布と同じような国語問題…武蔵の狙いとは

 一方の武蔵はどうだったでしょうか。2月6日に、今度は数学を含めた4科目の入試問題を解説・分析する講習会が開かれましたが、その際に、ベテラン講師の先生方の間で「今年の武蔵の国語の入試問題は、同じ御三家の麻布の5年前の出題文と同じで、設問も同じようなものだった」ということが話題になりました。

 武蔵や麻布が出題したのは、井上ひさしさんの文章「あくる朝の蝉」でした。実は、この文章は有名校の間で計7回くらいは出題されており、大手塾のテキストの中にも入っているとのことでした。武蔵の受験生は十分トレーニングを積んでいる生徒ばかりでしょう。今年の武蔵の国語の問題については、麻布の過去問を解いたことがあるかないか、その経験の差が大きく出るか、あるいは塾のテキストで学習したことのある生徒の多くが高得点を取るのではないか。そのように推測しました。しかし、これも結果は違っていました。武蔵の入試国語の得点結果は芳しいものではなかった、ということらしいです。

 もっとも、麻布の5年前の入試については、受験者平均も合格者平均も科目別には公表されていないので、今回の武蔵のケースとは比較できませんが。

学んだ知識を使って考えさせる…大学入試改革をにらんで

 さて、今年の男子御三家2校の入試問題とその結果から、どういうことが考えられるでしょう。今の受験生はこうした「今まで学んだ知識を使って考えさせられる問題がとても不得意だ」ということなのですが、少し説明を加えたほうがよいでしょうね。一つ一つの知識は基本的なこと(言葉)ばかりです。ですが、それらの知識を組み合わせて、ある一つの問題を解決することを求められた時に、「よく理解できない」「文意を読み取れない」ということなのです。

 この「考えさせる」タイプの入試問題は、いままではあまり多く出題されませんでした。「習熟問題」という、一定の手順で解いていけば回答できる問題が入試の定番でした。

 でも今までの「習熟問題」は、「考える」ということからは少し遠いことなのです。実は2020年あるいは25年から導入される予定の大学入試改革による新テストは、このような「考える」ことを問う方向で行われる、といわれています。

今後の中学入試問題の方向性…「考える」ことの大切さ

 開成も武蔵も、難関男子校としては例外的に、新しい大学入試への対応について、学校説明会で話していた学校です。今回の入試問題は、両校の姿勢がよく示されたものだと思うのです。他校への影響力を考えると、今後の中学入試問題の方向性を示すものとも言えます。もし、そうならなかったとしても、こうした問題が出題されて、「基本的な知識を使って考えればいいんだな」「難しい知識や難問の解き方ばかりを覚えなくていいんだ」と思えるのはいいことだと思います。

▽これまでのアドバイス

 ・入試本番「勢いをつける」コツ

 ・偏差値ではわからない合否の分かれ目

 ・2学期の学習、ひと手間かけた挑戦

 ・マンガで学べる「精読」のコツ

 ・ソロバンと中学受験算数の「共通点」

 ・世阿弥の教え、学習の「三つの目」

 ・開成中の入試算数、どう取り組む?

 ・受験後の答案見直しで学力アップ

 ・受験は「できることを確実にやる」

 ・「昨日より今日はできる」で自信

 ・体力づくりこそ、合格への確実な道

 ・解答を間違えたときがチャンス

 ・「できる」と「わかる」は同じ?

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プロフィル
森上展安  (もりがみ・のぶやす
 1953年岡山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。東京第一法律事務所勤務を経て都内で学習塾を経営後、88年に㈱森上教育研究所を設立。中学受験、中高一貫の中等教育を対象とする調査・コンサルティング分野を開拓した。中学受験生の父母対象に「わが子が伸びる親の『技』(スキル)研究会」セミナー(oya-skill.com)をほぼ毎週開いており、読む進学マガジン『読む進学』も主宰(yomu-shingaku.com)。読売新聞教育欄でコラム『合格知恵袋』(2011年~12年)を連載したほか、研究所HP(morigami.co.jp)では『THE 対談 学校長シリーズ』を動画で発信している。森上教育研究所スキル研究会の著書は『中学受験 はじめての学校ガイド 2015』(ユーキャン学び出版など多数。