小町拝見

「これなあに?」に胸きゅん…俵万智

 この夏、息子が幼かったころに書いたエッセーをまとめる作業をしていた。当時は必死だったり大変だったりしたことが、今となっては何もかも懐かしく思われる。街を歩いていれば幼い子どもに目がいくし、発言小町の子ども関連トピにも目がとまる。


 「2歳の子どものこれなあに?」というトピ。1行目の「わかっていても、なんでもかんでもこれなあに?と聞いてきます。」に、胸がきゅんとした。2歳児あるあると言ってもいい。

 ウチの息子も、次から次へ手当たり次第、身近なものを指さして「なんていうの?」をエンドレスに言っていた。

 「なんていうの?」「本だよ」「なんていうの?」「窓だよ」「なんていうの?」「新聞だよ」……。

 翌日また同じものを指して聞く。つまり、その物の名前が知りたいのではなく、自分が聞いて、相手が答えてくれるということ自体が楽しいのだろう。

 言葉というものは不思議だ。意味のある連なりを発すれば、相手が動いたり、何かを言い返してくれたりする。大人にとっては、ごく当たり前のそんなことも、言葉を手にしたばかりの子どもには、まるで手品か魔法のように感じられるのではないだろうか。

 また、「なんていうの?」の応酬は、コミュニケーションというよりはスキンシップに近いなとも感じた。

 自分の言葉に、無条件に必ず反応してくれる人が身近にいることを、確認しつつ楽しむ。そのことによって心が安定する。そういう効果。

 トピを立てたお母さんは、病気ではないかとまで心配しておられたが、先輩ママたちのアドバイスに触れて、安心しましたとのこと。発言小町の井戸端会議的な良さが、垣間見える場面だった。

俵 万智(たわら・まち)
 歌人。1962年、大阪府生まれ。24歳で出版した歌集「サラダ記念日」がベストセラーに。96年から読売歌壇選者。近著に「旅の人、島の人」(ハモニカブックス)など。