小町拝見

旅はハプニングあってこそ?…俵万智

 旅にハプニングはつきものだ。渦中にある時は大変だけれど、過ぎてみれば、それこそが一番の思い出になっていたりもする。

 「旅行ハプニング」という、その名もズバリ、ハプニングを募集したトピが、盛り上がっていた。


 機体トラブルで降ろされ、経由地のドバイを観光することになった人(二十数年前の発展途上の様子は興味深い)。アドバイスを聞かず、雪道で遭難しかかったところ、その忠告をしてくれたガソリンスタンドのお兄さんが追いかけてきてくれて九死に一生を得た人。「乗務員乗り継ぎミスのための欠航」「貨物室から逃げた蛇の捕獲に手間取っている」といった機内アナウンスなど、面白いエピソードが尽きない。松山千春さんが、出発の遅れた機内で歌を披露されたという、先日の心温まるニュースなども思い出される。

 自分自身の旅を振り返っても、今なら笑えるハプニングがたくさんある。初めての海外一人旅でロストバゲージしたこと。滞在先のお嬢さんが貸してくれた下着が、すごくセクシーで、まごついた。イギリスの小さな村の詩のお祭りに招待されたはいいが、通訳の若者が2日目から来なくなったこと。車で送ってもらうはずだったロンドンまで、息子と2人、なんとか列車を乗り継いで行った。

 台風で飛行機が飛ばなくなり、航空会社に紹介されたホテルに行くと、体育会系の合宿専用のような宿だったこともある。朝ごはんのお茶碗が、どうみても丼だった。

 トピのほうは、だんだんハプニング自慢みたいな様相を呈し、2回目の投稿をする人までいる。困り具合が激しいほど笑える。もしすべてが順調だったら、案外つまらないかも。そしてそれは、旅に限ったことではない、とも思う。

俵 万智(たわら・まち)
 歌人。1962年、大阪府生まれ。24歳で出版した歌集「サラダ記念日」がベストセラーに。96年から読売歌壇選者。近著に「旅の人、島の人」(ハモニカブックス)など。