私の「発言」

(2)増える「叱られたい」若者…博報堂「若者研」リーダー・原田曜平さん

 若者たちを取り巻く人間関係はどう変わったのか。引き続き、博報堂若者研究所リーダーの原田曜平さんに話をうかがいます。

先輩・後輩もソフトな関係

 ――前回、反抗期がない若者が増えているという話でしたが、若者同士の関係には変化が見られますか。

 原田曜平さん)先輩、後輩はすごくソフトな関係になってきています。昔と違って、大学のサークルでも、無理やり一気飲みをさせることはほとんどなくなっていると思います。もし、まだそんなことをやっているサークルがあれば、ソーシャルメディアでうわさがあっという間に広がってしまうので、翌年には部員が集まらず、サークル閉鎖になってしまいますからね。

 そういう環境なので、強要されたり、叱られたりした経験が本当に少ない。だからこそ、意外とそれが求められているんですよ。僕がリーダーを務める若者研究所のデータでも、「ほめられたい派」と「叱られたい派」では、「叱られたい派」のほうが伸びてきています。「いいよいいよ」と認められてばかりだと、人間、不安になるというか。普遍的なニーズとして、「だめだよ」と言われたいというのもあるんじゃないでしょうか。

 ――「叱られたい」んですか。ちょっと意外です。

 原田)例えば、僕は、ビジネスに参加したい若者たちと一緒に活動していますが、若者の感覚を重視しながらも、ビジネスシーンの最低限のマナーや決まり事についてはものすごく厳しい態度で接しています。得意先からは、「原田さんは、もっと若者と友達みたいに接しているかと思ったら、意外と“超昭和”なんですね」と驚かれることもありますが、緊張感を持たせないと、若いうちはすぐに手を抜いてしまいますから、体育会系に近い形で接しています。15年ぐらい若者研究を続けていますが、「叱る」ことが年々、より効果的になっている感覚があります。叱られると、以前の若者は、「うるさいな、こいつは。でも、この人のそばにいたほうが得策かな」と心で反抗しながらついてきていましたが、最近は、喜ぶようになってきたと感じるんです。

叱られるのは「超、ラッキー」

  • 月に1回開催される若者研の全体ミーティングの様子
    月に1回開催される若者研の全体ミーティングの様子

 ――「初めて叱られました」という感じなのでしょうか。

 原田)そうそう。以前、ラジオの仕事で、緊張してうまくしゃべることができなかった学生がいました。暗い顔をしていたので落ち込んでいるのかなと思って、帰り道に「場数を踏めば、どんどんうまくなっていけるよ。ただ、重要なのは、ちゃんと自分なりに想定問答を用意して準備をしたかということ。だいたい世の中は準備で決まるんだから」という話をしていたんです。「なるほど」とか言っていたので、伝わったかなと思っていたら、突然、パシャッと六本木ヒルズの夜景を撮り始めた。

 ――SNS用ですね。

 原田)彼に悪気はないんですよ。でも、得意先の前でそれをやられると困るので、僕は怒るんですよね。

 原田「君、何やってるの」

 学生「え? 夜景がきれいだったんで撮りました」

 原田「でもさ、別に俺にとって何の得もない、君にしか得がないような話をしているのに、それを遮るというのはよくないんじゃない」

 そう指摘すると、「あ、そういう考えもあるんだ」という感じでハッとした顔をしていました。その後、相当こたえたかなと思って、一緒にお酒飲んで、「さっきは厳しい話をしたけどさ」と言うと、「いやあ俺、超ラッキーですよ。こんなこと言ってくれる大人は周りにいないんで」と答えるんです。なんだかちょっと、複雑な気持ちになりましたね。

 ――素直なんでしょうか。

 原田)素直ですよ。怒られた経験というのが少なくなって、みんな、いいよいいよという中で育っているので。だから、少し話はそれますが、「新入社員を怒る」というのも意外と有効活用できるんです。どうやったら若者になじんでもらえるか、企業の人事関係者は「迎合すること」を一生懸命考えますが、特別な処方箋はないんです。若者も意外と昭和のスタイルを希少価値として求めている面もあります。もちろん、やり過ぎはダメですよ。やっぱり「都合のいいときに都合のいいことを言ってほしい」「その範囲で怒ってほしい」というぐらいのものなので、そのバランスは考えないといけません。

「つながっている」人は多く、関係は薄く

 ――叱ってもらいたいというのは、自分のことを見ていてくれたことを確認したいのでしょうか。それとも、「成長したい」ハングリーさからなのでしょうか。

 原田)もちろん人によりますが、全体的な世代論でいえば、上昇志向の人は減っていると思います。上昇志向を持ったところで得られるものが少なくなっていますから。昔だって一部の人しか上昇できなかったんですが、経済が成長ステージにあったので、自分も上昇していくという幻想がありましたよね。でも、今の日本は、非常に夢を抱きにくい。人口が減るとか、住んでいる町が消滅するとか、借金が増えたとかいう話題ばかりで、そりゃあ夢も持てませんよね。現状維持はしたいけど、昔の若者と比べると、「ワーク・ライフ・バランス型」というか、無理せず成長したいという感じになっている。成熟国家になるとどこの国の若者もそうなる傾向があるので、仕方ないです。

 ――現状維持の無理しない生活の中で、ちょっと活を入れてほしいという感じなのでしょうか。

 原田)ええ。ソーシャルメディア的な自己承認欲求といえばいいでしょうか。狭くてもいいから、同じコミュニティー内で認められたい、自分のことをちゃんと見てくれる大人が欲しいと感じているんです。人間の持っている時間は24時間で変わりませんから、ソーシャルメディア含めて人間関係が多くなると、1人と付き合う時間は減ってしまいます。「つながっている」人の数だけは多くなったのに、逆に関係性は薄くなっている。だから、どこかで人間関係に不安を抱えているという感じですね。

 ――心を許せる人は少なくなっているのかもしれませんね。

 原田)「親友」という関係はかなり減っています。僕自身でいえば、幼なじみとは、大人になってからはわざわざ会わなくても、考えることがだいたい分かり合えている関係です。今はそういう関係はかなり減っています。赤の他人だけど、年が離れた大人が自分を見てくれているということにすごく価値を感じる傾向はあると思います。

プロフィル

 原田曜平(はらだ・ようへい) 1977年東京都出身。慶応大学卒業後、(株)博報堂入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。多摩大学非常勤講師。2003年JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。専門は若者研究で、日本およびアジア各国で若者へのマーケティングや若者向け商品開発を行っている。著書に「さとり世代」「ヤンキー経済」「女子力男子」など。