私の「発言」

(2)炎上について考える…ネットニュース編集者・中川淳一郎さん

  • 中川淳一郎さん(東京都内で)
    中川淳一郎さん(東京都内で)

 ――今からネットに触れる子どもたちって、この状況がスタートラインですが、それは「かわいそう」だと思いますか。

 中川淳一郎さん)思います。理由は……記者さんはおいくつですか。

 ――私は、実は、同級生か1個上くらいだと思います。

 中川)え、本当に? なんだ早く言ってくださいよ。

基礎的な知識を得たいなら

 ――私が子どもだった頃は、テレビなどの文化体験で言うと、東京とイナカの差がものすごく大きかったと思うんです。でもネットは、特にスマホがこれだけ普及してくると、そこそこ同じレベルになってきたのかなというふうにも感じるのですが、いかがでしょう。

 中川)あぁ、確かにフジテレビ系やテレビ朝日系がないような地域とか、よくありましたもんね。ネットに関しては、同じレベルでフラットになったのが良くないんですよ。オレは実に読書体験が重要だってことを言いたいんですね。自分の知識のことを考えると、基礎的なこと、例えばこの今飲んでいるコーヒーの産地とか、紙の誕生とか、そういう知識ってほとんど学研のマンガからきているんですよ。

 ――「何とかのひみつ」ですね。読みました。

 中川)「発明発見のひみつ」とか「忍術・手品のひみつ」とかです。ああいうのが大事だって今になって思うんです。紙の発明を紹介しているページのことなんて、今でも目に浮かびますもん。最初は木簡で、たくさん運ぼうとリヤカーみたいな荷車にたくさん積んだ人たちが、すごく重そうにしている絵が描かれてた。まあ、「さんまいのおふだ」とかの絵本から、「はだしのゲン」なんかのマンガも含めてなんですけど、やっぱり子どもの頃の読書って一生残るんですよ。

 それで、ネット体験が一生残るかっていうと、たぶん残らないですね。「あのサイトすごかった」と一生残ることはまずないと思う。昨日見たサイトさえ覚えていない。理由は、ネットはひょいひょい進みすぎるし、無料だから。そこそこ大きくなってからなら、本は自分で選んで買うし、子どもの頃は親が選んで与えた本っていうのは、何か意図があると思うんです。今になって、本当にあのときの基礎的な知識を与えてくれた本には感謝しています。

 あと、ネットの使い方で言うと、みんな自分に都合のいい情報ばかり取るようになっちゃったんですよ。有象無象のまとめサイトを深追いし過ぎて、知識がどんどん偏っていくと思います。オレだって今や「大食い」と「UMA」のサイトばかり気付いたら見てしまっている。

ネットは炎上しやすくなっている?

 ――最近は、有名人がツイッターやブログをやめるとニュースになることもあります。「ネットは何でも自由に発言できていたのに、窮屈になった」という傾向はあるのでしょうか?

 中川)いや、2000年代初めからずっとですよ。

 ――スマホになっても変わらないですか?

 中川)変わらないと思いますよ。だって炎上は……さかのぼると2003年に「JOY祭り」っていうのがあったんです。「JOY」っていうハンドルネームの女性が居酒屋で、態度の悪い店員を夫らに殴らせたって自慢げに投稿したんです。ほかにも、大手IT企業の内定者たちが、内定式のあとにピンポンダッシュしたのを自慢したとか、今に始まったことじゃない。

 当時から「誰かがやらかさないかな」とみんな待っているのは同じで、スマホになったことで、より接触時間が長くなって、投稿する人、待ち構える人の人数が増えた。それで以前より探しやすくなったという感じですね。もうすぐ4月になったら、大学の新歓コンパがありますよね。「新歓コンパ 1年生」ってリアルタイム検索をかけると、楽しそうにしている新入生がいっぱい出てくる。そういうのを、血眼になって探しているわけです。「未成年ですよね。彼の前にあるジョッキは何ですか」「ウーロン茶です」みたいなね。

ネットで「紳士」は勝てない

 ――「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)で、記事にクレームをつける人たちについて書かれていました。

 中川)「吉野家で肉とタマネギを抜いた牛丼を注文した」という記事とかですね。「忙しい店員さんに失礼です!」って批判が殺到したけど、吉野家の店員さんは取材のときもまったく怒っていなかったですし、当事者からの苦情は一件もなかったんですよ。ほかの記事でも、「傷ついている人がいるかもしれないんです!」と言ってくる人もすごく多くて、はじめは「それは配慮が足りませんでした」と低姿勢に謝っていたけど、数年後からは「実害をうけた当事者の方を見つけて、私に連絡するように言ってください」で済ませています。

 当事者じゃなくて、実害も実利もないのに苦情を言ってくるような、ネットの「怒りの代理人」たちは、絶対に勝てる論争を仕掛けてきますよね。ハンディキャップマッチなんです。企業は下手な対応はできませんから。それで企業のサイトはどんどん無難で、つまらない内容になっていってしまう。

 こういう怒りの代理人も、さっきの新歓コンパの“品行方正チャン”も、みんな娯楽でやってるんですよ。暇つぶしです。

 ――中川さんは毎年、「ネットニュースMVP」を選んでいらっしゃいますが、最近の傾向はありますか?

 中川)2013年は、バイト先の冷蔵庫に入ったり、ピザの生地を顔に張り付けたり、いわゆる「バイトテロ」みたいなのが盛り上がって、一般人の逆襲って言われました。でも2014年はリアルニュースの人たちがすごすぎて……。ネットもその人たちに関連したものが目立ってましたね。

 でも何だかんだ言って、「ベビーカーを満員電車に乗せるのはどうか」っていうベビーカー論争とかもそうだし、ネット特有のウケるネタっていうのは必ず出てくるんですよ。そういうネット発のニュースがあるから、この仕事は楽しいですね。オレの一つの定理として、「ネットでは紳士は損をする。ならず者が勝利する」というのがあるんですよ。ページビューも伸びる。「大手小町」でも、ネット特有のウケそうなネタをバンバン上げてみたらどうですか。

プロフィル

 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973年、東京都生まれ。編集者、PRプランナー。一橋大学商学部卒業後、博報堂で企業のPR業務を担当。2001年の退社後、雑誌の編集などに携わる。ネットでの情報発信に関するコンサルティング業務なども行っている。著書に「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)、「夢、死ね! 若者を殺す『自己実現』という嘘」(星海社新書)など。