私の「発言」

(1)ウェブはやっぱり「バカのもの」?…ネットニュース編集者・中川淳一郎さん

  • 中川淳一郎さん(東京都内で)
    中川淳一郎さん(東京都内で)

 「ウェブはバカと暇人のもの」――そんな“衝撃的”なタイトルの著作で知られるネットニュース編集者・中川淳一郎さん。10年近くIT業界に携わる中川さんは、「発言小町」をはじめとするネット社会をどう見てきたのでしょうか。リアルな人間関係についての考え方なども聞いてみました。

「ケンカばかりしてるサイト」

 ――発言小町はもちろんご存じだと思いますが、初めて知ったのはいつ頃ですか?

 中川淳一郎さん)2004年頃かな。よく覚えてないけど、「ケンカばっかりしているサイトがある」って聞いたんですよ。それも女同士。それを運営しているのが読売新聞だって聞いて、「どういうこっちゃ」って思ったのを覚えています。

 ――当時から読売新聞が運営しているのはご存じでしたか。

 中川)分かってました。当時のネットは、まだまだ通信環境も限られていて、通信費も高かったんです。だから使う人が限られていて、そのなかで「女同士がやり合う」というのは結構変わった空間だった。オレは2006年からネットニュースの仕事を始めたんですけど、当時のネットサービスってだいたいが男相手だったんです。それで、オレが担当したサイトは女性をターゲットにしていて、女相手のサービスで際立ってたのが大手小町だったので、熟読して「この手の話題が受けるのか」って参考にしていたところがありますよ。

 ――本当ですか。

 中川)年収を書けばいいんだとか。

 ――なるほど。「ネットでウケる12か条」を著書「ネットのバカ」(新潮新書)で紹介されています。例えば「モラルを問うもの」「他人の不幸」などがありますけど、発言小町を参考にまとめられた部分もあるんですね。

 中川)そうそう。みんなが知りたいこととか、「こういうのはつい読んじゃうよね」というのが発言小町にはよく現れていますよ。

「文化」が生まれる 健全な成長パターン

 ――発言小町は昨年10月で15周年を迎えました。どうしてこれだけ続けられたと思いますか?

 中川)えっと、悩みというものは永遠になくならないからでしょうね。それってやっぱり、読売新聞の朝刊に掲載されている「人生案内」がベースにあるんだろうと思うんですけど、そういう「伝統」なんじゃないんですか?

 ――掲示板をスタートさせた当時から「悩み」に目を付けていたのかは、もう分かりません。お知恵を拝借したいという実用的な相談も多いですし、いまの発言小町の「スタイル」はユーザーの人が作ってくれたのかなとも考えています。

 中川)そうですね。途中からお約束芸と、いわゆる「釣り師」が出てくる。発言小町はちゃんとサイトとして成長するんですよね。健全な成長パターンです。

 ――健全ですか?

 中川)そうそう。だって「様式美」が生まれたでしょう。独特の言葉遣いとか、発言小町で展開されているのは、一つの「文化」だと思います。ネットでは、1ジャンルで1人しか勝てないんです。人は勝者に群がるというか。だから「女の悩み」っていうジャンルでは発言小町が圧倒的に1位で、「人間の悩み」全般で言うと「Yahoo! 知恵袋」ですよね。人が集まるとどんどんコンテンツも追加されるし、好循環で回るんですよ。

 ――最近もチェックしていただいていますか?

 中川)今はもうね、あまり見てないです。理由は炎上のパターンがほとんど出尽くしたからですね。オレがウェブサイト見るのって勉強のために見ているんで。ただ、OLさんが「私は2年目の正社員ですが、暇過ぎて小町に書き込むしかない。どうすればいいでしょうか」「私も暇です」みたいなのをたまに見ると、日本の雇用が抱える問題などを理解することもできます(笑)。

ネットで「集合知」は生まれるか

 ――中川さんはネットに深く携わる仕事をされている一方、ネットへの悲観的な見方を崩されませんね。

 中川)サイトの運営当事者からすると、相手にしているのは、ほとんどが善良なユーザーではあると思うんです。それでもやっぱり「荒らし」行為をする人や、ひどい悪口を書く人、何を考えているか分からない人、とにかく文句を言いたい人……そんな「バカ」もいっぱいいますよね。差別がまかり通り、偏見があって、知能の低い人たちがののしりあっている場所も、ネットにはたくさんあって、よくネットでは「集合知」なんて言われますが、「集合愚」か「集合痴」の方が多い。

 ――スマホが急速に普及して、ネット空間は変わっていくと思いますか。

 中川)スマホはもっと「バカ」を参入させたかもしれませんね。それが現実を反映してるのかもしれないですけどね……でもオレはそれを悲観しているわけでも何でもなくて、それでいいんじゃないかと思っています。インターネットが「みんなのもの」になったんでしょうね。

 ――「みんなのもの」になって、ネットに希望みたいなものってありますか?

 中川)ないないない。今って「東京に希望があるか」って言われると「ない」と思うんです。それと一緒。インターネットって「特別なもの」じゃない。過度な幻想を持つべきではないということは、肝に銘じたほうがいいです。

プロフィル

 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973年、東京都生まれ。編集者、PRプランナー。一橋大学商学部卒業後、博報堂で企業のPR業務を担当。2001年の退社後、雑誌の編集などに携わる。ネットでの情報発信に関するコンサルティング業務なども行っている。著書に「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)、「夢、死ね! 若者を殺す『自己実現』という嘘」(星海社新書)など。