私の「発言」

(2)男はなぜ「昔はワルかった」と言ってしまうのか…男性学者・田中俊之さん

  • 「男性だけが40年フルタイムで働くのが当たり前と思われているのはなぜだろう、と疑問に感じたのが、男性学に関心をもった理由です」
    「男性だけが40年フルタイムで働くのが当たり前と思われているのはなぜだろう、と疑問に感じたのが、男性学に関心をもった理由です」

 ――「男性学」って、どんな学問なんですか?

 田中俊之さん)「男性学」の前には「女性学」があります。それは女性が女性であるが故に抱えてしまう問題に答えるもの。例えば結婚・出産を機に仕事を辞めなきゃいけないとか、名字が変わってしまうとか。男性学も問いかけの原点は同じです。ただ、「その性別である」というだけでジェンダーの問題に引っかかってしまうことは、いまだに女性のほうが多いのかもしれません。

男性にも「不自由」がある

 ――「男性が男性であるが故に抱えてしまう問題」には、どんなものがあるのでしょうか?

 田中)最も典型的なのが、「男は定年まで働き続けるのが当たり前」「男は大黒柱として家計を支えなければならない」という働き方に関するものだと思います。それ以外の働き方をしようとすると、ちょっと周囲がザワザワしてしまいますよね。長時間労働の問題もあるので、なかなか家事参加、育児参加も進みません。そしていざ「家事・育児」の道を選べば選んだで、今度は「平日・昼間」問題に直面します。

 ――「平日・昼間」問題? 何ですか、それ。

 田中)平日の昼間に街をうろうろしていると、それだけで奇異の目で見られてしまう問題です。若い男性が公園にいたり、スーパーで買い物をしていたりすると、「なんでこんな時間に?」「怪しい人?」って思いますよね。これが女性なら、そんなふうに思われることはありません。

 ――どうしても女性のほうが、「いろいろと制約があるなあ」「男性のほうが有利だ」などと思いがちですが、男性にも生きづらさがあるんですね。

 田中)もちろんそうです。男性が不自由なことも、それなりにありますよ。

 ――どうして「男性学」を専攻したんですか?

 田中)1990年代後半に大学生だったことが大きな理由だと思います。性別によって「そうあらねばならない」といった規範や役割意識への関心が高まっていて、ジェンダーについて興味を持ちやすい時代でした。女性問題と同じように、男性の問題を扱っていかなければという流れがあったと思います。

<男性らしさ>をアピールする方法

  • 田中俊之さん(武蔵大学江古田キャンパスで)
    田中俊之さん(武蔵大学江古田キャンパスで)

 ――性別による規範って、根深いですよね。女の子は青色が好きでも、やっぱり「ピンクいいね!」って言わなきゃいけないのかな……と思ったりしますし。

 田中)そうそう。<女性らしさ>ですね。昨年あたり、コンビニの冷凍庫に寝ころんで撮った写真をツイッターに投稿して、問題になったケースがありましたが、あれはある意味<男性らしさ>をアピールしたものだと思います。

 <男性らしさ>とは、「男性に求められるもの」。それは長く「達成」か「逸脱」か――だったんです。それで評価されてきた。「達成」とは、いい大学に入るとか、野球で甲子園に出るとか。しかし、それはすべての男性にできることではありません。そこで、できない人は「逸脱」の方向に走ります。「ルールを破れる俺はすごい」という方向です。一昔前ならヤンキー、もっと前は暴走族。バイト先などで変な写真を撮ってツイッターでつぶやくのも、この「逸脱」に当てはまると言えます。

 あと「オレ、昨日徹夜しちゃったよ」「いやいやオレなんて3日寝てないから」といった訳の分からない自慢合戦も<男性らしさ>のアピールです。「朝からガムしか食ってねえし」なんて、絶対、体にいいわけがないのに……。実際に不良だった人の数よりも、年を取って「昔はワルかった」なんて言い出すお父さんの数の方が多いのも同じ理由です。男性の「逸脱」アピールはなかなか抜けきらないんです。

 ――なるほど。そんなふうにアピールされたとき、<女性らしく>反応するには、どうしたらいいんですか?

 田中)<女らしく>ということであれば、「すごーい」って言ってあげることでしょうか。女性が男性に言うべき“さしすせそ”って聞いたことはありますか。さ=「さすが」、し=「知らなかった」、す=「すごい」、せ=「先輩だから……特別に○○させてください」「センスいいですね」、そ=「そうなんですか」。こうして持ち上げてあげればモテはするでしょうが、男性を増長させるだけですから僕は反対ですね。無理に<女らしく>しようとせず、「つまらない」「知らない」「興味ない」と正直に言ってあげるのがオススメです。

お互いの「しんどさ」を知ろう

 ――いちいち面倒……。「そんなの勝手に求めないでよ」と思いながら、でもつい「男でしょ!」「女でしょ!」って口にすることもありますね。気をつけなきゃいけませんね。

 田中)そうですね。プレッシャーになるし、「生きづらさ」の原因になるかもしれません。以前、この「私の『発言』」にも登場されているジェーン・スーさんが、「男の人はあまり、男らしさを求められることのしんどさについてしゃべらない」って言っていましたが、「しんどいなー」って思っている人も間違いなくいます。

 ――女性も男性学を学ぶと良さそうですね。

 田中)そうしてもらえると助かります。自分の性別で見えているものとは、違うものが見えるようになると思いますし、そんな視点があれば、働き方や家事・育児の問題についてもトータルな議論ができるようになるはずです。最近はずいぶん、男性の生き方について「このままじゃダメだ」と気付き始めたのではないでしょうか。世の中は「男性問題なんてない」というスタンスで長くきましたけど、わりと、みんな当てはまる、思い当たる節があると思いますよ。

プロフィル

田中俊之(たなか・としゆき) 1975年生まれ。社会学博士。武蔵大学人文学部を卒業し、現在は同大社会学部助教。著書に「男性学の新展開」(青弓社)、共著に「大学生と語る性」(晃洋書房)などがある。近く「男がつらい(仮題)」をKADOKAWAより出版予定。