私の「発言」

(1)男性だって悩んでいます…男性学者・田中俊之さん

  • 「雑談や相談が上手な女性は、いくつになっても友だちを作ることができるようです。うらやましいですね」と話す
    「雑談や相談が上手な女性は、いくつになっても友だちを作ることができるようです。うらやましいですね」と話す

 女性同士がホンネで語り合う――そんなイメージの強い掲示板「発言小町」ですが、実は男性ユーザーも少なくありません。

 しかし男性は閲覧止まりで、お悩みを投稿してくれるのは、まだまだ女性が多数派。男性はやはり、何となく尻込みしてしまうのでしょうか。武蔵大学社会学部助教で、「男性学」が専門の田中俊之さんに話を聞きました。

男女で違う? 小町の楽しみ方

 ――「発言小町」はご存じですか?

 田中俊之さん)知っています。学生たちが見ているので、「どんな話が出ているのかな」と、ときどきチェックしています。

 ――どんな印象でしょうか?

 田中)まず、男性と女性の相談は「違うな」と感じました。例えば「妻か実母か」というトピ。単身赴任中の30代男性からの投稿で、「単身赴任を終えるにあたり、一人で暮らしていた家の引っ越しに実母が来ると言い出した。これに対し妻が怒っている」という内容で、ズバリ解決策を求めている尋ね方です。「こうやったらうまくいく」などの具体的なアイデアを聞きたいんですね。それに対して女性は、「大変ですね」とか、共感を求めているように感じます。発言小町の「楽しみ方」が違うんでしょうね。

  • 田中俊之さん(武蔵大学江古田キャンパスで)
    田中俊之さん(武蔵大学江古田キャンパスで)

 ――そうですね。女性は「ああでもない、こうでもない」と盛り上がれるのに対して、男性は選択肢を示して回答を求めたり、論理的に話をまとめたりするのが上手ですよね。

 田中)雑談が苦手という男性は多いです。もう10年くらい、自治体の地区センターなどに招かれて、男性向けの講座を担当しています。テーマは定年後の仲間づくりなどいろいろですが、最近は雑談のトレーニングを取り入れることがあります。結構好評なんですよ。

 講座では「自己紹介」とか「悩んでいること」とか、簡単なテーマを決めて話をしてもらいます。そのときのルールは二つで、「相手の会話に割り込まない」ということと、「相手を否定しない」ということ。会社で指導的立場にあった男性などは、すぐ「そうじゃない」と否定しちゃったりして。

 ――なかなかスキルを身に付けるのは大変そうですね。

 田中)講座を一生懸命うなずきながら聴いていた男性たちが、終わると同時にさっとクモの子を散らすように帰ってしまうんです。これが女性だったらきっと、「さっきコーヒーが好きっておっしゃっていたけど、どこか近くにおいしいお店はある?」とか会話がつながって、友達になれたりするんだろうなと思うのですが……。

男性たちへ…「相談力」を磨け!

 ――読売新聞では、朝刊の「くらし家庭面」に「人生案内」という人気の相談欄があります。もう100年も続いているのですが、こちらも男性からの相談は少ないです。男性はなかなか悩みを打ち明けられないのでしょうか。

 田中)男性は本当に相談下手だなあと感じます。一つには、どうしても弱みを見せるのが嫌だという感情が根っこにあるのではないでしょうか。自治体には「男女共同参画センター」などの名称の施設があり、相談を受け付けていたりしますが、男性からの相談件数はどこもすごく少ないです。じゃあ男性に悩みがないかというと、全然そんなことはなくて、むしろ相談できないということのほうが問題だなと思っています。

 また、「相談」という行動への価値観も、女性とは違うのかもしれません。他人に相談しても、問題って解決しないことのほうが多いですよね。そうすると男性は「解決しないなら意味がない」と感じてしまいがちです。

 ――なるほど。確かに発言小町も「課題解決」とはうたっていませんね。

 田中)そうでしょう。でも、解決しなくても相談ってすごく価値があって、人に悩んでいることを伝えるうちに問題が整理されることもあるし、自分の中では何となく答えが分かっていたとしても、他人に言ってもらうことで納得できることもありますよね。何より、ちょっと弱音を吐くことで楽になれるのも大切だと思います。発言小町は、匿名のサイトだからこそ話せる相談も多いかもしれませんね。

 ――男性に「もっと気軽に相談してみたら」と伝えるためにはどうすればよいと思いますか

 田中)先ほどのような講座でも、ときどきお話しするのですが、例えば山登り。「この中に登山が好きな方は?」と尋ねると、たいてい数人はいらっしゃいます。その方に対して、「でも登山って、登っても必ず下りてこなきゃいけないでしょう。だったら最初から同じ場所にいればいい。何も生み出さないじゃないですか」って否定してみるんです。だけど、登山ってその“行為”そのものが“目的”ですよね。相談や雑談もそれと同じで、いったん登ってみたからこそ見える景色もあるということです。相談という行為自体の価値に気づかなければなりませんね。

 ――「相談力」や「雑談力」を身に付けたい男性にアドバイスをするとしたら?

 田中)「会話は往復して成り立つキャッチボール」ということに立ち返るしかありません。論破してはいけないし、夫婦や親子なら「誰に食べさせてもらっているんだ」は絶対に禁句。訓練あるのみです!

プロフィル

田中俊之(たなか・としゆき) 1975年生まれ。武蔵大学人文学部を卒業し、現在は同大社会学部助教。著書に「男性学の新展開」(青弓社)、共著に「大学生と語る性」(晃洋書房)などがある。