私の「発言」

(1)「社会の宝」である子どもたち 途上国支援通じ見守る…増田明美さん

 日本を代表するマラソン選手で、現役引退後はスポーツジャーナリストとして活躍する増田明美さん。

 豊富な取材に裏付けられた分かりやすいマラソン解説や、読売新聞の「人生案内」回答者でおなじみのほか、国際非政府組織(NGO)「プラン・ジャパン」の評議員など、様々な分野で存在感をみせています。そんな増田さんに、活動に込めた思いなどをうかがってきました。

「女子サッカーチーム」に当初は反対も

 ――今年7月に、プラン・ジャパンがアフリカのトーゴで支援しているプロジェクトを視察するために、現地へ行かれたと聞きました。トーゴの女の子たちを、サッカーをプレーすることを通じてリーダーシップを担える人材に育成しようというプロジェクトだと聞いて、とてもユニークだと感じました。

 増田明美さん)7月にトーゴを訪れました。トーゴは世界最貧国のひとつで、貧しい生活の中、早すぎる結婚、人身売買、女子教育の不足など深刻な問題を抱えていますが、とりわけ女の子は、男性優位の社会の中で様々な権利が保障されず、自らの可能性を追求して生きることが難しい状況です。そんな中、女の子たちの自尊心を育み、自らの人格を強化し、最終的に人生で正しい選択ができることを目的に2008年からこのプロジェクトはスタートしました。村ごとに女子サッカーチームを計20チーム作ったんですが、当初は、とにかく村の長老も親戚、家族も大反対。「どうして女性がスポーツなんかするんだ」と理解を得るのが大変だったんです。ところが今回、親善試合を視察したところ、それからまだ6年しかたっていないのに、1点入ると興奮して踊り出すのはみんな男性。スポーツが持っている力を私は信じているんですけれども、これは大きな変化でしたね。

  • 試合前、増田さんは両チームの選手全員と握手をしてエールを送りました
    試合前、増田さんは両チームの選手全員と握手をしてエールを送りました

 ――サッカーを通じて意識改革を図ったところが、成功の要因だったのでしょうか。

 増田)そうでしょうね。トーゴの人たちはサッカーが大好きなんですよ。試合の応援に思った以上の人が集まってきていて驚きました。プロジェクトに反対していた長老が「今はどんなに遠い村で試合があっても見に行く」と言っていましたが、スポーツはまぐれもないしウソもないから、努力した分だけ体は絞られていくし、技術も向上していく。ずっと見ている人は、女性がこれだけ努力している、こんなに成長しているということが分かるんです。そこがスポーツの分かりやすいところなんでしょうね。トーゴの男性たちに対して、女性への偏見をなくしてくださいとか、女性を応援してくださいと言っても、なかなかうまくいかないかもしれないけれど、見ていると応援したくなるのが、スポ-ツの持っている力なのかな。今回視察へ行って、「ああやっぱりそうだったんだ」と確信を持ちました。

リーダーシップ 期待以上の形で

  • ハーフタイムにはチームの女の子たちが寸劇を披露。「親も女の子も教育がないと人身売買の業者にだまされてしまう」ことを伝え、教育は女の子にも必要であるというメッセージを送っています
    ハーフタイムにはチームの女の子たちが寸劇を披露。「親も女の子も教育がないと人身売買の業者にだまされてしまう」ことを伝え、教育は女の子にも必要であるというメッセージを送っています

 ――周りの人から応援されていくうちに、女の子たちの可能性も大きく広がっているんですね。

 増田)そうなんです。女の子たちは、サッカーをやるだけでなくて、試合のハーフタイムに寸劇を始めたんですよ。村人たちが500人ぐらい集まるでしょう。じゃあせっかく人が集まったから、ということで、補欠の子とか、プランが育成しているリポーターやアナウンサーの女の子たちが真ん中に集まってきて、まるでお笑い芸人のようなおもしろいトークをするんです。寸劇の内容は、人身売買にだまされないようにと注意を呼びかけるもの。マントをかぶった悪人役の女の子が、「親も子どももしっかり教育を受けていないと、人身売買の人に連れて行かれるよ」ということを、おもしろおかしく伝えるんです。すごく大事なメッセージなのにコミカルだから、小さい子どもたちも、ケラケラ笑いながら、大事なことを教えてもらっている。そういうこともやっているから、村人たちから、この女の子たちはとても尊敬されているんです。寸劇にしたのも、字が読めない人が多いから、寸劇を通して伝えようと考えたようです。期待以上のものが出ている感じです。

 ――すごい変化ですね。

 増田)最初は女の子がサッカーなんかやって、イスラム教徒も多いので肌をさらけ出してって批判されたんですけど、サッカーが強いから応援するんじゃなくて、人としても言っていることも素晴らしいし、伝えるメッセージもすごいから応援するんです。ちゃんとこれまでの6年間の活動を見ているんですよね。

「応援していたら、同時に応援されている」

 ――女の子たちはそうした変化を感じ取っていますか。

 増田)「サッカーをやって何が変わったか」と質問したところ、ある女の子は「大きな声で話ができるようになった」と言っていました。それから、親が自分の言うことを聞いてくれるようになったそうです。そして、「将来何になりたいか」と聞いたら、サッカー選手という子もいたんですが、ジャーナリストになりたいという子もいました。村の関係者に聞いたところ、女の子の中には国のリーダーになりたいという子も出てきているということです。

 ――日本の女の子たちと比べてもパワーを感じますか。

 増田)トーゴは電気が通っていない村も多いんですが、そんなところで、布をはったところに厚紙で作ったイラストを貼りながら啓発活動をしたり、サッカーシューズもないので裸足(はだし)で走ったり、たくましいですね。また自分が自己実現していけば、少しずつ豊かになって親も楽になる。そしてみんなをハッピーにすることができるという目標があるので、目をキラキラさせてがんばっています。

 ――こうした活動に取り組んでいる増田さんの思いの源は?

 増田)私自身が晩婚で子どもに恵まれなかったこともあり、夫とは社会の宝としての子どもたちを幅広く見守っていこうと話しています。力強く、たくましく女の子たちが生きていることで、私自身も元気を頂いています。今年、50歳になったんですが、人生の折り返し点にきたと思って、ますますこれからパワフルにいかなくちゃと思っているんです。これからも、今回のような“応援していたら、同時に応援されている”活動をライフワークとしていきたいと思います。

プロフィル

増田明美(ますだ・あけみ) 1964年千葉県生まれ。スポーツジャーナリスト、大阪芸術大教授。私立成田高校在学中、長距離種目で次々に日本記録を樹立する。1984年のロス五輪ではメダルを期待されたが、無念の途中棄権。1992年に引退するまでに日本最高記録12回、世界最高記録2回更新。2001年から10年間、文部科学省中央教育審議会委員を務める。現在はスポーツジャーナリストとして執筆活動、マラソン・駅伝中継の解説に携わるほか、自治体のスポーツ振興や街づくりなどの委員などに取り組む。