私の「発言」

(1)あなたは“ネット弁慶”ですか?…ジェーン・スーさん

 ある日、記者がよく利用している通販サイトで、「あなたが買った本を読んでいる人は、こんな本も読んでいます」と、「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)という本がお薦めされました。その著者がジェーン・スーさん。本は、女の生き方について、「なるほど」と思わずうなずいてしまう含蓄ある言葉が満載でした。今回の「私の『発言』」は、そんなジェーンさんに、「発言小町」などのネット世界から見える女の姿について聞いてきました。

 ――ジェーンさんは日本人なんですね。

  • 「小町の投稿が励みになった」と話すジェーン・スーさん
    「小町の投稿が励みになった」と話すジェーン・スーさん

 ジェーン・スーさん)そうです。「ジェーン・スーは日本人です。」というブログもやっています。最近、こんな外国人の偽名で仕事をしていることが親にバレてしまいました。私はどうしたらよいでしょうか……。

 ――ぜひ発言小町で相談してみてください……。今回の本にも、ネットで検索して「発言小町」の投稿を引用していただいた部分がありましたが、小町はご存じでしたか?

 ジェーン)知ってますよ。気になるワード、ママ友とか婚活とかで検索すると引っかかってくることがすごく多くて、そこからついつい長居して読みふけっています。

 ある時父親と大げんかをして、突発的に「法的に縁を切れないのか!!」と怒り心頭で「親 縁を切る」なんて検索したことがあるんです。小町のトピックもたくさん検索結果に出てきて、いろんな投稿を読ませてもらって、「こんなケースもあるのか……」「私だけじゃない」なんて励まされていました。

「承認欲求」が満たされる場所

 ――小町をチェックするときは、どんなところから読まれますか?

 ジェーン)やっぱりランキングです。レスがぐっと一気に付くようなトピは、やっぱりドラマチックで面白いですよね。小町のような匿名の掲示板の醍醐(だいご)味は、誰もがもやもやと思っていたこと、隠していたちょっと黒い気持ちが顕著に表れるところだと思うんです。そんな人間の(さが)みたいなものが可視化されているので、読んでいて飽きません。

 これはよその掲示板だったんですけど、「ご近所のママ友に仲間はずれにされています」という、小町でもよくあるような相談があって、それにみんなあれこれアドバイスしてあげていたところ、相談者が最後になって「実は私は仲間はずれにしている側です。私は間違ってませんでしたよね」などと言い出したんです。これは本当に大どんでん返しでビックリしました。

 匿名の掲示板は、比較的相談者を批判する流れになりがちだと思うんです。正解のない相談なら、たたこうと思えば何でもたたけてしまう。集団の意見を一気に持って行って流れを作るってことは、すごく簡単。私も意識してないと、たたく側に回ってしまうなと気を抜かないようにしています。

 ――ユーザーの皆さんは、仕事でもなく、何の報酬があるわけでもないのに、レスを書き込んでくれます。

 ジェーン)そうですよね。親身に「人の役に立ちたい」という人も多いんでしょうね。ただ、ネットには「義憤に駆られている」人もたくさんいると思うんですよね。私も数年前まで「mixi」で相談を投稿してもらうコミュニティーの管理人をやっていたんです。もともとは、「生理用品は羽根付きがいいか、羽根なしがいいか」「チャックが開いている男性がいたらどうやってそれを本人に伝えるか」とか、なかなか身近な人には聞けないけど、本当は知りたいことやくだらないことを気軽に尋ねるコミュニティーで、みんなの“お作法”情報を交換するようなイメージだったんですね。

 でも、人間関係のお悩みなんかがたくさん寄せられるようになると、「私は常識人。あなたよりものを知ってるし、思慮深い。そんな私があなたにハッキリ教えてあげましょう。いい機会ですから」って感じで、本当に上から目線の人が必ず書き込んでくるようになってしまった。しかもいつもおんなじ人。

 そういう人たちは“ネット弁慶”だと思うんです。きっと普段の生活では、ほかの人からの「上から目線」をビシビシ感じていて、ストレスもたまっているんでしょう。あと、さみしいとか悲しいとかいう気持ちをうまく処理しきれていないんじゃないかなあ。だから、理解したふりをして、アドバイスしてストレスを発散させる。そんな人たちに、こうした掲示板は承認欲求を満たしてあげている。よくできたシステムだと思います。

 ――匿名ならではですね。

 ジェーン)そうですね。フェイスブックみたいな「実名」のサイトだったり、会員化したりすると、こんなに本音は顕在化しないでしょうから。

ネガティブな感情でひっかき傷だらけ

  • 「完全に自分を受け入れられたとは言えませんが、40歳代になってすごく楽になりました」
    「完全に自分を受け入れられたとは言えませんが、40歳代になってすごく楽になりました」

 ――ジェーンさんは、本の中で、「怒りや(へこ)みや妬ましさといったネガティブな感情」について書いていらっしゃいました。そんな気持ちを「大人ベルトコンベヤー」に載せてやり過ごしていたけれど、そのあとの歯がゆい気持ちが消えることはなかったという文章が印象的でした。

 ジェーン)「怒ったり妬んだりなんて、大人としてみっともない」とばかりに、ベルトコンベヤーに処理しきれない気持ちを載せるだけでは、その怒りや妬みに通底している「傷ついてさみしい」という気持ちを処理しきれていなかったんですよね。それでひっかき傷だらけ。

 でも40歳になって、最近は、さみしさや傷ついた気持ちなど、みっともない感情に開き直れるのが大人かなと思うようになりました。泣いたり、人に助けを求めたりもして、無様な自分に動揺しない厚かましさを身につけたんだと思います。加齢ってすばらしいですね。

 さみしいとか悲しいとかいうパーソナルな気持ちを、世間への怒りに変換してしまった「義憤の人」たちにも、ぜひ今回の本を読んでいただけたらと思います。

 ――たたかれてしまったトピ主さんはどうすればいいでしょう?

 ジェーン)やっぱり、「うるせー!」って気持ちは必要ですよね。会ったこともない、個人的に知らない相手だからこそ本音で尋ねることができる場合もあるけれど、よく知らない人にたたかれる筋合いもないですから。

プロフィル

ジェーン・スー 1973年、東京都生まれ。作詞家やコラムニストとしての活動のほか、TBSラジオ「週末お悩み解消系ラジオ ジェーン・スー相談は踊る」(毎週土曜午後7時)などラジオ番組のパーソナリティーとしても活躍している。ツイッターのアカウントは@janesu112。