私の「発言」

(3)いつか「天界発言小町」も…漫画家・中村光さん

  • 中村光さんのサイン
    中村光さんのサイン

 今年5月に「(セイント)☆おにいさん」新刊も発売され、ますます活躍する中村さん。漫画家を志したきっかけや、「聖☆おにいさん」への思いなどを聞きました。

 ――漫画家になろうと思ったきっかけは。

 中村)兄が買っていた漫画が家にたくさんあり、それを読んでいたのがひとつ。また、父の知り合いに漫画家がいて、その人の家に遊びに行ったときに、「漫画家って本当にいるんだ」と現実味を帯びたものになったことがきっかけです。昔から絵を描くのが好きだったんですが、その人を見て、「漫画家になれるんだ」と思いこんでしまって。今思えば、単に高校受験の勉強をしたくなかっただけじゃないかとも思うんですけど、中学3年生の秋ぐらいから急に、「漫画家になることが目標だとしたら、高校に行く意味があるのか」とかいろいろ考えて、結局、漫画家を目指す道を選びました。

 ――そこからほどなくしてデビューしたんですよね。

 中村)投稿1作目で入賞しました。そのときはとにかく、常に描いていなきゃいけないと思っていました。この年齢までに漫画家になるためには、この年まではアシスタントで食べ、この年までになれなかったらやめる、という具合にスケジュールを決め、「だから学校には行かなくていい」という感じでした。今思うとよく大丈夫だったなというか。うちの家族はみんな芸術関係なので、高校に進学しないことはそんなに変ではなかったですね。逆にサラリーマンとして働いている自分が想像できなかった。何らかの形で絵を描いて暮らしているだろうなと思っていたので。

 ――最初から今のようなギャグ漫画を描いていたのですか。

 中村)最初のころ描いていたのはストーリーものでした。連続して描いていかないとやめてしまうと思って一生懸命でした。4作目ぐらいに描いた50ページぐらいの長編作品を短いギャグ漫画にして投稿したら、それがとても気に入られて、短編ギャグを描くようになりました。

 ――絵やギャグセンスの印象からか、中村さんを男性漫画家だと思っている人もいるのではないでしょうか。

 中村)よく男性だと思われていますね。何でだろう。性格が男っぽいわけではないんですけど、絵柄なんですかね。私自身が、男性漫画家が描いている作品がとても好きだというのも影響しているのかな。女性らしさをわざと排除しているわけではないので、私が好きなものが男性的なのかも。

 ――影響された漫画家はいますか。

 中村)ギャグ漫画だと、うすた京介先生とか、「魁!!クロマティ高校」をかいた野中英次先生。私は野中先生の「課長バカ一代」が大好きなんです。なにわ小吉先生の「王様はロバ」とかも、自分で買って読んでいました。うちの兄は相原コージさんが好きで、「かってにシロクマ」とかをずっと読んでいました。お兄ちゃんの好きなものをかっこいいと思っているうちに、だんだん今の感じになったような気がしますね。

  • (C)中村光 講談社
    (C)中村光 講談社

 ――「聖☆おにいさん」は、ブッダとイエス、そのほかの聖人たちのキャラクター設定が絶妙ですよね。どのようにキャラクターを決めるのですか。

 中村)基本的には、こうだったら一番魅力的だなと自分が思うものに近づけていく感じです。キャラ設定ありきで、だれに似ているかなと考えるんですけど、例えば「姉に似ているな」と思ったら、姉はこういうときにはこうするな、などと考えながら決めていきます。イエスは私に近いですけど、私だったらこんなことをして、姉にこういうふうに思われるな、とか。「聖☆おにいさん」の10巻に出てくるカギの話は、実際にあったエピソードです。私は、カギに関して自分を信用していないので、そのまま描いてみたんです。

 ――聖母マリアのキャラクターはかわいらしくて、癒やされますね。

 中村)実は、友人にあのままの人がいるんです。すごく癒やされる人で、しゃべり方とかもそのまま使わせてもらっています。「マリアのキャラクターに使ってもいいですか」と聞いたら、「いいわよ~。うれしい! ちっちゃいころからマリア様になるのが夢だったの」と喜んでくださって。すごくかわいい女性ですね。

 ――題材も身近なところからなのですか。

 中村)私はそうですね。よく、今回、出産ネタがあったのは出産したからですね、と言われるんですけど、それ以前から、基本的に私は起こったことしか描いていないんです。1巻から、その前の週に自分がやったこととかしか描いていない(笑)。先週、浅草に行ったから浅草の話を描いたとか、バーベキューに行ったからバーベキューの話を描いたとか。経験しないと描けないタイプなので、自分が昔、家族と経験した楽しかったエピソードは全部使いましたね。「聖☆おにいさん」に登場する愛子ちゃんという子どもは、うちの親族に子どもが生まれたときに登場しました。子どもがいると、こういうことが起きるんだということを経験してネタを作るという感じです。

 ――中村さんが思わずニヤッとしてしまうのはどのキャラクターですか。

 中村)描いていて思わずニヤッとするのは、イエスと弟子のやりとりの感じとかですね。自分の「がさつ」なところが入ってくるので、リアルな感じを出しながら楽しく描けるところです。

  • 中村さんの仕事場の机には、資料がいくつか置いてありました
    中村さんの仕事場の机には、資料がいくつか置いてありました

 ――宗教的なエピソードについては、いろいろ調べてから描くのですか。

 中村)資料もあるので調べてはいますが、あまり調べ過ぎると、描くときに頭がパンクしてしまうんですよ。新しい説が出ているらしいとか、どの説を採用すればいいのかと悩んでしまうので。陶芸家の父が仕事や趣味で絵を描いていて、その資料として、仏像の写真集とか、天使の画集とか、宗教書などが実家にありました。自分もそうした宗教書などを好きで読んでいたので、その知識の蓄積で「聖☆おにいさん」の連載スタート時は描いていました。それと同じような状況になるように、今でも仕事に関係ないときに資料を読んでおいて、あとで知識として引っ張り出せるようにしておきます。

 ――昔から好きだった分野の題材が、生きているんですね。発言小町では、宗教や政治の話題は議論がヒートアップしてしまい、展開が難しいことが多いのですが、聖人を漫画に描く難しさはありますか。

 中村)「聖☆おにいさん」を描き始めたころは、いろいろ気をつけないといけないテーマだという意識があまりなくて、面白いか面白くないかだけを考えながら描いていました。ただ、神様とか、仏様とかイエス・キリストとかがすごく好きなので、失礼があっちゃいけないとは思っていました。

 ――ブッダもイエスもほかの聖人たちも、イケメンぞろいだし、登場人物も本当の悪人はいなくて意外といい人たちばかり。中村さんが聖人たちをリスペクトしているのが伝わってきますね。

 中村)ブッダもイエスもすごくかっこいいと思って描いているんです。神様と仏様は、いわばスーパースターですし、かっこよくないわけがないって思うので。宗教の世界は、神通力があったり、天使がいたり、天界という概念があったりと、とてもファンタジーを感じます。怒られるかもしれませんが、宗教は一番、ファンタジーや2次元に近いものとして私には感じられるんです。科学や宇宙の話も好きですけど、そういうものと同じぐらい、想像ができる余地があるのがいいですね。

 ――ブッダとイエスは2000年近く働いたことでバカンスを取るという設定ですが、これだけ長い期間働けばまだまだバカンスは続きそうですね。

 中村)100年ぐらいはもらえるんじゃないかなと思うんですけど。2000年も働いたんで。

 ――もし、発言小町を題材にマンガを描くとしたら、どんな世界が描けそうですか。

 中村)「天界発言小町」みたいなものをやってみたいですね。「深夜に降臨したんですけど、迷惑がられました。皆さんはいつもどんな感じで降臨していますか」みたいな。それで、ほかのキャラクターが「その時間から行くなんてちょっと信じられないです」とか、「私はいつもこうしています」とかいうのを投稿したりというのは一度やってみたいですね。匿名で投稿していても、「これはたぶんユダだろうな」とか、なんとなく分かる感じでやってみたいですね。

 ――そうなれば天界公認掲示板ですね(笑)。実現するのを楽しみにしています。

 (文・写真 津秦幸江)

プロフィル

中村光(なかむら・ひかる) 漫画家。静岡県出身。2001年、「月刊ガンガンWING」から「海里の陶」でデビュー。02年、デビュー作を含むコメディー短編集「中村工房」が発売される。04年から電波系ラブコメディー「荒川アンダー ザ ブリッジ」を「ヤングガンガン」で連載。06年からは「聖☆おにいさん」をモーニング増刊「モーニング・ツー」で連載開始、新たなジャンルを開く。