私の「発言」

(1)検索で小町へ 抜け出せない「魅力」…漫画家・中村光さん

  • 「聖☆おにいさん」10巻(講談社)
    「聖☆おにいさん」10巻(講談社)
  • (C)中村光 講談社
    (C)中村光 講談社

 ブッダとイエス・キリストが、バカンスを過ごすため東京都立川市に“降臨”し、下界生活を満喫する様子をコミカルに描いた漫画「(セイント)☆おにいさん」(講談社)。

 近所のおばちゃんのように、細かいお金を気にする生真面目なブッダと、ゲームとネットが大好きなイエス。意外と人間臭い聖人たちが次々と登場しますが、5月に発売されたばかりの最新刊(10巻)で、聖母マリアが「発言小町」に投稿している事実を衝撃告白。「マリアさまも小町住民だった」と話題になりました。自身も発言小町を読んでいるという作者の中村さんに、発言小町との付き合い方などを聞いてきました。

 ――聖母マリアが小町に投稿したというテーマは、いかにも発言小町にありそうな設定で、思わず噴き出した人も多かったようです。中村さんは発言小町をご覧になっているのですか。

 中村)仕事をはじめ私生活でも、検索でいろいろなことを調べていると発言小町だと分からずに引っかかっていることが多いんです。見てみると、返信がいっぱいついているじゃないですか。そのうち、びっくりするような意見を言う人が出てくるので、驚いて投稿をさらに見ているうちに、気になってずっと読んでしまうという感じです。

 ――発言小町の滞在時間は、他サイトに比べると非常に長いというデータがあります。

 中村)抜け出せない感じなんですよね。セリフとコマ割りを考えている途中などに見ちゃうと大変なので、iPhoneは家に置いて(仕事場に)行くようにしています。

 ――そこまでしっかり読んでいただけるとは……。ありがとうございます。発言小町でよく見てしまう話題はなんですか。

 中村)検索するのは、やはり育児に関すること。出産祝いの話を調べたりすると、発言小町が一番上に出てきます。読んでいると、いろいろな意見の人がいて、最終的には何でもいいのかなと感じたり。また、子どもを連れて飛行機で旅行に行くことが多いので、子連れで行っても大丈夫か、ということについて調べていても、発言小町がよく引っかかりますね。炎上している話題ほど引っかかってくるので。

 ――炎上したりしないように、誹謗(ひぼう)中傷などは掲載しないなど、事前に投稿者に了解をいただいうえで掲載前にチェックもしているんですが……。

 中村)そうだったんですか。でも、炎上は勝手にしちゃいますからね……。大変そうな仕事ですね。

 ――発言小町の投稿内容について、どう感じますか。きついという印象?

 中村)ちょっとだけ感じます。でも、私は、普通のサイトの上品な記事でも怖くなっちゃうんです。「こうあるべき」みたいなものがすごく苦手で。だから、「いい母」ランキングとかを見ると本当にダメなので、見ないようにしているんです。

ネットは世の中の「常識」を再確認するところ

  • 中村さんの仕事場。ここから人気作品が生まれます
    中村さんの仕事場。ここから人気作品が生まれます

 ――さきほど、「出産祝い」という話がありましたが、中村さんも調べたんですか。

 中村)出産について気になることを調べたのが、発言小町を使うようになったきっかけです。出産した後に配らなきゃいけないものとかをインターネットで一生懸命調べたりしました。それから、わたしは怖いことがあると怖さを突き詰めたくなる性格で、不安があったりすると、嫌なことのほうを延々と考えるタイプなんです。発言小町は、誰にも相談できなくて行くところ、という印象ですね。ちょっとここで聞いてみるか、みたいなことなのかな。

 ――自分の中で、もやもやしていたことを確認しにくる方もいます。

 中村)私は出産のときに気になることがあって、発言小町の投稿を読んだときに、あれはやっぱり変だったよね、と思ったことがありました。割と鈍いので、あとでなんか嫌な感じがするなと思って人に話すと、「すごい大変だったんじゃないか」と言われることがあって、それに気がついてから、インターネットで確認するようになりました。一般的にどうなのかを確認をしないと、ずっとその嫌な環境から逃げ出せなくなることがあると気がついてやるようになったんですけど、あまりにもやると、それも疲れるというのもあって難しいです。

 ――1日どのぐらいネットを見ていますか。

 中村)1時間ぐらいですね。

 ――発言小町に投稿したことはありますか。

 中村)それはないですね。投稿したら、自分だと分かるような気がして。たぶんナーバスになっているからですよね。個人的な問題をインターネット上に書くというのは、私から見るとすごい。

 ――もし、ご自分が投稿するとしたら、どんな感じになりそうですか。

 中村)クヨクヨするし、人に聞いて欲しいことがたくさんあるタイプなので、絞れない……。でも、自分の状況を説明しようと、投稿文を書いただけで心が安定しそうな気はしますね。そして、投稿する段階で「なるほど」と納得して、送信ボタンは押さずにやめそうな気はします。内容は……うーん、そうですね。働きながら育児するのは大変だと思うこととか、男性がうらやましいときがあることとか。働いていると、女性はちょっと損なんじゃないかという気がすることがあるんで。

感情移入して勝手に傷つくことも

  • 中村さんの自画像
    中村さんの自画像

 ――会社勤めなど、漫画家以外の仕事をしたことはないのですか。

 中村)ないです。16歳でデビューしてからずっとマンガです。社会経験がないので、発言小町に書いてあることを全部うのみにしちゃうんですよ。それで、自分ではそれが一番怖いところなんですけど、理性では違うと分かっているのに、勝手に傷ついたりするんですよね。漫画家特有だと思うんですけど、すごく感情移入をしてしまうので、自分が経験していないのに怒りがわいてきたり。例えば、私が浮気されたわけでもないのに、浮気された話を読んでいるだけで、浮気されたような気持ちになるんですよ。で、すごく落ち込んだりしてしまう。アシスタントに言っても、「それはないです」って言われます。

 ――受け止めすぎてしまうんですね。

 中村)ツイッターでほめられても、すごく気になるんですよ。ここが面白かったのか、ここみたいなものをいっぱい描かなきゃ、みたいに考えて描けなくなってしまうんです。本当に嫌なんですけど。ほめられて、「うれしい!」「がんばるぞ!」とノリノリになるんですけど、いざ描こうとすると、どこをほめられたかな、みたいになってしまう。それで去年、自分のアカウントは閉じちゃいました。

 ――ツイッターはすべてのメッセージが直接届き、受け止める大変さはありますよね。

 中村)悪口を言われたりはしないんですけどね。勝手な想像力で、「刊行本の感想のリプライが少ないな」とか(笑)。そういうところで判断してしまうので。今までは、細かく言ってもらえたのに、今回は「かわいかったです」としか言われない、みたいな。そういうので、「つまらなかったです」と言われなくても傷ついてしまう。面倒くさいですよね、この漫画家。

プロフィル

中村光(なかむら・ひかる) 漫画家。静岡県出身。2001年、「月刊ガンガンWING」から「海里の陶」でデビュー。02年、デビュー作を含むコメディー短編集「中村工房」が発売される。04年から電波系ラブコメディー「荒川アンダー ザ ブリッジ」を「ヤングガンガン」で連載。06年からは「聖☆おにいさん」をモーニング増刊「モーニング・ツー」で連載開始、新たなジャンルを開く。