私の「発言」

(3)みんな気にしすぎ!…精神科医・香山リカさん

 ――発言小町には、「私は間違っていますか?」と尋ねるお悩みが多く寄せられます。みんな自分のしたことが正解だったのか、とても気にして過ごしているようです。

 香山リカさん)そうですね。診察でも、大学の授業でも、「気にしすぎ状態」の人には毎日のように出会います。「彼氏とLINEをやっていて、なかなかメッセージが『既読』にならなかったり、『既読』が付いても返事がなくてスルーされたりするのは、もう終わりってこと?」「上司に言われたあの一言は、どういう意味?」「ママ友とのランチを断ったら、子どもまで仲間はずれにされてしまうかしら……」などなど、本当にみんな他人の細かいしぐさや言葉尻などに敏感です。それだけみんな思慮深く、繊細になっているんだとも言えそうですが、それがいいことばかりではないと思います。

 

テキトーは信頼の証し

 ――思慮深い人同士なら、きちんとお互いのことを思いやって、うまく付き合っていけるということでもないんですね。

 香山)そうなんです。気にしすぎ状態に陥ってしまうと、次から次へと、気にすることで心がいっぱいになってしまうんですね。でも、私自身の経験からいっても、「気になって仕方のないこと」のほとんどは、気にしても意味のないこと。だから気になることの原因を一つ一つ解明して、解決していく必要はなく、むしろ「最初から気にしないようにすること」のほうが大切かなと思っています。

 ――うまいコツはありますか?

 香山)「気にしない技術」(PHP新書)でも書きましたが、私、昔から高田純次さんが大好きなんです。魅力はなんといっても「テキトー」なこと! 日本人は時間にもとても正確で、きっちり物事も進めるのが得意ですから、テキトーはあまり良い扱いをされていません。でも、テキトーが許されるということは、それだけ相手を信頼しているという証しでもあると思います。自分のしたことが正しいか、正しくないかばかりを気にするのではなく、「まあ、いいんじゃないの」と自分も相手も許せる――そんなテキトー力を身につけたいですね。

 

人に会うときに心がけていること

 ――香山さんは日々、人に会うお仕事をされていますが、もともと人とコミュニケーションを取るのが好きだったんですか。

 香山)いいえ、全然。高校生の頃は「自然の中で一人きりでできる仕事に就きたい」と思っていましたし、今も、ネコと一緒にいるときや、出張先のビジネスホテルで狭いベッドに寝ころがり、マンガ雑誌などを読んでいるときがいちばん安らぐんです。人間が視界にいると落ち着かなくて。

 ――本当ですか。でもいや応なく、人に会わなければなりませんよね。そんなとき、何か心がけていることはありますか?

 香山)「演技」ですね。精神科医とか、大学教授とか、それぞれの役割にはふさわしい演技があるので、そのように振る舞うのは必要不可欠だと思っています。私はもともと人付き合いの苦手な人ほど演技には向いていると考えていて、「いつもとちょっと違う」ふうに振る舞うより、「まったく違う」自分になるほうがずっと簡単だと思うからです。私も白衣を着たときは、“元気なお医者モード”にスイッチを切り替えることにしています。

 ――使い分けは難しそうですね。

 香山)「どちらも自分」と自覚できれば、コントロールできると思いますよ。自分の中の二面性とか、矛盾とかをコントロールしながら、ときには感情をストレートに出す。そんなふうにできることも、「大人の条件」かなあと考えています。柔軟で懐が深いということだと思うんです。役割をきちんと理解したうえで、テキトー……そんな大人になりたいですね。

 ――そうですね。でもつい「役割」を演じきろうと頑張りすぎてしまいそうです。

 香山)「発言小町」を読んでいても、女の人は妻であり、嫁であり、母でありと一人何役もこなしていて、「顔で笑って心で泣いて」という心意気を感じます。つらいときは「助けて」と言うことができればいいのに、周りの人にはつい元気に振る舞ってしまう人も多い。夫や、管理職の男性たちは発言小町を読んで、そんな女心を学んでほしいですね。(文・内田淑子、写真・高梨義之)

 

プロフィル

 香山リカ(かやま・りか)1960年北海道生まれ。精神科医。立教大学現代心理学部教授。豊富な臨床経験を生かし、新聞・テレビなどのメディアで、現代社会やサブカルチャーも含めた文化批評を行うなど幅広く発信している。プロレスファンとしても知られる。主な著書に「悲しいときは、思いっきり泣けばいい」(七つ森書館)、「しがみつかない生き方―『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」(幻冬舎)など。