私の「発言」

(1)「発言小町」に専門家の回答は必要か?…精神科医・香山リカさん

 2回目は、精神科医で、テレビ番組のコメンテーターなどとしても活躍中の香山リカさんにご登場いただきます。「発言小町」には心の悩みも多く寄せられますが、専門家の目にはユーザー同士のやりとりはどう映っているのでしょう。人付き合いやつながりについての考え方も尋ねてきました。

やっぱり女って生きづらい

 ――掲示板「発言小町」はご存じですか?

香山リカさん)もちろん、知っています。2010年に「他人の何気ない一言に助けられた」というトピが年間の「発言小町大賞」に選ばれて、そのときに記事でコメントを求められたんです。それ以来ときどきお邪魔していますが、小町は同業者や友人の間でも話題になることがあって、もっと前から知ってはいました。

 ――どんな「場」という印象ですか?

香山)職業柄、診察室ではいろいろな実体験、赤裸々な人間関係について聞く機会も多いのですが、小町では本当に女性の皆さんが抱えるリアルな問題、本音の意見に触れることができますね。昔に比べて、建前上は家庭でも職場でも男女差別は解消され、むしろ女性が大切にされる時代になってきています。それでも、小町の投稿を読んでいると、「やっぱり女って生きづらいんだなあ」って感じます。むしろ、社会進出が進んだがゆえの大変さもあるかもしれませんね。そんな悩みに、自分自身の体験をふまえたアドバイスや、「分かります」という共感の声などが集まって……ユーザーの皆さんも優しいですよね。

 ――ユーザーの皆さんは顔も知らないトピ主さんのお悩みに、本当に熱心に向き合い、回答を寄せてくださいます。言うなれば「ボランティア」なのですが、どうしてこんなに書き込んでくださるんでしょう。

香山)やっぱり、女性しか分からない大変さもありますよね。最後は「女同士、頑張っていこう」という感じで。あとは、回答を寄せることで自分自身の「マイナス体験」もプラスにできるからだと思います。例えば自分の病気のことや残念な友人のこと、おしゅうとめさんとのいざこざなど、ちょっと「恥ずかしい」と感じることでも、小町で披露すると、トピ主さんをはじめ、同じように悩んでいる誰かの役に立つ。そうした体験を通して、自分の中で「マイナス」ととらえられていたことがプラスに転じていくんだと思います。自分の体験も意味があったんだ、というふうに再認識できるんです。

知恵を出し合うことの大切さ

 ――心のお悩みなど、専門家の目から見て、「もっとこうしたほうがいいよ」などと突っ込みたくなることはありますか?

 香山)そうですね。「薬は飲まなくていいでしょうか」というお悩みなどについては、知らないうちに医者は「薬は飲んだ方がいい」と思いこんでいますし、つい「飲まなくていい」というアドバイスなどには不安を感じることもあります。でも、経験者の知恵というのは本当に大切なんですね。精神科の臨床の現場でも、「ピアサポート」といって、うつ病など同じ悩みを抱える人同士でケアしあう方法がとられるようになってきていますが、専門家のカウンセリングではなく、そこでむしろ立ち直る人も多くいます。そういうのを見ると、医者は傲慢だなとか、「正しいとされていることでも絶対じゃないな」とか思わされます。小町もピアサポート的なのかも。医者とか弁護士とか、専門家はあまり出てこないほうがいい。お互い知恵を出し合うことが大切で、私も学んだり、参考になったりということが多いです。

赤の他人だから素直になれる

 ――フェイスブックなどのソーシャル・ネットワークでは、基本的にリアルな友人関係がネットの世界に持ち込まれています。発言小町は「匿名性」も一つの特徴です。

 香山)先ほどの「他人の何気ない一言に助けられた」のトピもそうですが、「赤の他人」がキーワードです。その記事でもコメントしたのですが、家族や友人など身近な人からの励ましはプレッシャーになることもあります。何の利害関係もなくて、自分を何者かよく知らない人からの言葉だからこそ、褒められればうれしいし、素直に心に響くのだと思います。逆にアドバイスする立場からすると、身近な人には責任もあるし、軽々なことは言えない。匿名だからこそ、誠実に、親切にできる部分もありますよね。これからも、小町でそんなやりとりに出会えたらと思います。

 

プロフィル

香山リカ(かやま・りか)1960年北海道生まれ。精神科医。立教大学現代心理学部教授。豊富な臨床経験を生かし、新聞・テレビなどのメディアで、現代社会やサブカルチャーも含めた文化批評を行うなど幅広く発信している。プロレスファンとしても知られる。主な著書に「悲しいときは、思いっきり泣けばいい」(七つ森書館)、「しがみつかない生き方―『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」(幻冬舎)など。