海賊版サイトの「収入源根絶」、広告規制が対策の切り札

 著作権侵害を理由としたブロッキングの可否が議論になるなど、社会問題となっている海賊版サイト。その資金源であるインターネット広告の収入を絶つことで横行を防ごうという取り組みが検討されている。著作権侵害サイトに対する広告規制は欧米では既に導入されており、英国では掲載数が7割減ったとの報告もある。ただ、ネット広告の配信システムは「ブラックボックス」といわれるほど複雑で、規制がうまく機能するかどうかは透明性の確保が鍵になりそうだ。

【海賊版サイト問題】
 政府は4月、「漫画村」「Anitube」「MioMio」の3サイトについて、ブロッキングの対象とするのが「適当」と公表し、これを受けてNTTが導入の方針を表明した。ブロッキングとは特定サイトへのアクセスを利用者に無断で遮断する行為で、憲法学者や消費者団体などが通信の秘密を侵害するとして反対を表明、ブロッキング以外の手法で対策を講じるべきだと主張している。

1社で2000万

 ブロッキングの実施が「適当」と政府から名指しされた3サイトの一つ、「漫画村」。その主な収入源はネット広告料だった。ネット広告はインプレッション(表示回数)ごとに課金する方法が主流で、閉鎖直前には月間アクセス数が1億6000万回を超えていた漫画村が巨額の収入を得ていたことは想像に難くない。

 ネット通販の「DMM.com」の場合、昨年1月から、配信を停止した11月末までに2000万円近い広告料を漫画村に支払っていたという。広告料で違法行為を「支えた」との批判もある中、片桐孝憲社長は「漫画村に出そうと思って出したわけではない。我々には配信先は知らされず、コントロールできなかった」と弁明する。

 やはり、3サイトの一つの「Anitube」に広告を出していた電子書籍配信会社NTTソルマーレの担当者も「広告会社には違法サイトに出稿しないよう求めているが、実際の配信先は分からない。今回も外部の指摘で初めて知った」と主張する。悪質サイトへの掲載が判明するとその都度、停止の手続きをとるが、「配信先は次々と変わりイタチごっこ」。これまで停止手続きをした配信先リストは数百に上るという。

 そう主張する背景には、広告主と広告が掲載される媒体の間に多数のプレーヤーが絡み合う、複雑なネット広告の仕組みがある。

 あらかじめ広告枠が固定されている「予約型」広告はごく一部で、近年は最適な広告を自動的に配信する「運用型」が主流になっている。広告主側の広告会社と、広告枠を提供する媒体側の広告会社が、価格やターゲットなどの条件を設定すると、それぞれの条件に合致した広告枠が膨大なデータの中から一瞬で選ばれ、配信される。媒体を誰かが閲覧するたびにリアルタイムに行われる入札もあり、どの媒体にどの広告が配信されるか事前に把握するのは難しい。「アドテクノロジーを駆使して、どんどん自動化と最適化を進めるうち、配信がブラックボックス化してしまった」と広告技術に詳しいデータサイン社の太田祐一社長は指摘する。

広告詐欺も

  • 漫画村の裏で動く「隠しサイト」の一つ。一流企業の広告が貼られている
    漫画村の裏で動く「隠しサイト」の一つ。一流企業の広告が貼られている

 それでも、問題のサイト上に広告が表示されていればまだ気づく可能性があるが、閲覧者には見えない「隠しサイト」に広告が貼られる場合もある。

写真は、1月12日時点で太田社長が確認した漫画村の隠しサイトだ。画面の一部を消すプログラムが挿入されているため、漫画村を閲覧しても、この隠しサイトは全く見えない。だが、漫画村にアクセスすると、記録上は隠しサイトにもアクセスしたことになるため、隠しサイト側の広告にも課金される仕組みだ。広告を貼られていた流通大手も「まさか漫画村に広告を出していたとは思わなかった」と驚く。

 こうした手法はアドフラウド(広告詐欺)と呼ばれ、ほかにも、広告を極小サイズで表示したり、プログラムによってインプレッションやクリックを大量に発生させたりと次々と新たな手法が編み出されている。太田社長は「海外では全体の30%が、国内でも15%程度がアドフラウドではないか。こうした手口を放置することが、違法サイトの収益を増やし違法行為を支えることになる」と危惧する。

配信先のコントロール

 だが、ネット広告の仕組みに詳しい日本情報経済社会推進協会の上席研究員、寺田眞治氏は「広告主側が配信先をコントロールすることは技術的に不可能ではない」と話す。

例えば、違法サイトやアダルトサイトなど広告主のブランドイメージを傷つけるサイトをブラックリスト化したり、信頼性の高い媒体に限定して配信したりするサービスも登場しつつある。アドフラウド対策として、媒体側が広告枠販売を許可している広告会社の情報を公開することで、不正な事業者を市場から排除する取り組みも広がりつつある。

 ただ、海外に比べ、日本での普及は遅れているようだ。寺田氏は「広告はその企業の顔。海賊版サイトに載ればブランドは大きく損なわれる。広告主が意識を高めて配信の透明化を要求していくことが、業界を健全化させる」と話す。

広告規制 海外では既に効果 ~英国では違法性の審査など慎重運営

 欧米では既に広告規制が海賊版サイトに対して導入され、成果を挙げている。文化庁が2016年に調査した海外での著作権侵害対策の報告書によると、英国、フランス、スウェーデンなどで官民連携の下で広告規制が実施されている。特に、英国では2013年から、ロンドン市警と広告事業者、広告主、権利者団体がブラックリストを共有し、広告出稿の自主規制を開始。この結果、15年までに主要企業の海賊版サイトへの広告出稿は73%も減ったという。

 ロンドン市警のウェブサイトによると、英国では海賊版サイトの半数近くにウイルスが仕込まれ、閲覧した端末を感染させる危険があったという。海賊版サイトに社会的信用の高い企業が広告を掲載することが消費者に安心感を与え、閲覧数を増やしていた点を問題視していたようだ。

 一方、日本では、ネット広告事業者で作る日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が権利者団体のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)と対策の検討を始めており、早ければ5月にも運用を開始したい考えだ。CODAから著作権侵害の疑いのあるサイトリストの提供を受け、加盟社で共有する方向という。

 ただ、サイトの違法性をどう判断するのか、サイト側にどのように反論の機会を与えるのかなど、整理しなければならない問題も残っている。英国の場合、サイトの違法性を判断するためにロンドン市警に特別チームを作り、権利者団体から提出された権利侵害の証拠を検証している。さらに、権利侵害が確認された場合には、まずサイト管理者に連絡して自主的な閉鎖などの機会を与えた上で、それでも応じなければリストに追加するなどの慎重な運営を行っているという。日本でも実施の際には、第三者によるリストの妥当性の検証や、リストに関する情報公開などが必要になるだろう。

 また、こうした動きは、業界全体で進める必要がある。特に、媒体と直接取引する広告会社の対応は重要だ。今回、漫画村への広告配信にJIAA加盟社のシステムが使われていたことが指摘されている。JIAAは現在、事実関係を調査しており、結果によっては処分も検討するという。

(編集委員 若江雅子)

2018年5月7日10:00 Copyright © The Yomiuri Shimbun